ロシア、ウクライナ政権転覆へ大統領に照準か

25日、声明を出すウクライナのゼレンスキー大統領=キエフ(ウクライナ大統領府提供・ロイター=共同)
25日、声明を出すウクライナのゼレンスキー大統領=キエフ(ウクライナ大統領府提供・ロイター=共同)

【モスクワ=小野田雄一】ウクライナに軍事侵攻したロシア軍が、首都キエフを包囲し、ウクライナのゼレンスキー大統領ら政権幹部の拘束を目指しているとの見方が強まっている。プーチン露大統領は最近、ウクライナ政権を「ネオナチ」などと称し、侵攻目的の一つに「ウクライナの非ナチス化」を挙げているためだ。ロシアは、親欧米傾向を強めたゼレンスキー政権を徹底的に懲罰する恐れがある。

ロシア軍は侵攻初日の24日、ウクライナ各地の飛行場やレーダー施設などに大量のミサイルを撃ち込み、「ウクライナの制空権を確保した」と発表した。11空港を含む83の地上施設を空爆で破壊したとしている。これと相前後して地上戦力が3方向から侵攻し、首都キエフなど主要都市を狙う周到さを見せた。

ロイター通信によると、ウクライナ政府高官は25日、ロシア軍部隊が同日中にもキエフ周辺まで到達する可能性があると述べた。ゼレンスキー氏は「ロシアの標的は自分だ」とするビデオ声明を出した。

ロシアは地上戦力でキエフを包囲し、空挺部隊を投入して大統領府など中枢施設を制圧する思惑だとの観測がある。地上部隊が市中に侵入すれば、市街戦となり、多数の死傷者が出る恐れがある。

プーチン氏が親欧米政権の転覆を狙っていることは「特別軍事作戦」の開始を発表した24日のテレビ演説からも読み取れる。この中でプーチン氏は作戦の目的について、親露派武装勢力が実効支配するウクライナ東部の「住民保護」だと説明。さらにウクライナの「非軍事化」と「非ナチス化」を目的に挙げた。

プーチン氏は、2014年からのウクライナ東部紛争で政府軍が親露派に対する「ジェノサイド(集団殺害)」を働いてきたと主張。ウクライナ政権を「ネオナチ」などと称したため、「非ナチス化」は政権排除を指すとみられる。

プーチン氏は「(親露派の)民間人に攻撃を加えた者を法廷に送ること」にも言及した。ロイター通信によると、米当局者も「ロシアの狙いはウクライナ現政権の首をとることだ」とみている。

24日の演説でプーチン氏は、ウクライナの親露派政権が大規模デモで倒れた14年2月の政変を、親欧米派勢力による「クーデター」だったと主張。これ以降の政権は米欧の非合法な「傀儡政権」だと断じた。

プーチン氏は東西冷戦終結後に北大西洋条約機構(NATO)が「東方拡大」したことを改めて批判。ウクライナをNATOに加盟させないよう米国などに求めたが拒否されたため、軍事行動を決断したと述べた。

プーチン氏は最近、「ウクライナが自らNATO加盟希望を取り下げるのがよい」と記者団に発言していた。このため、ゼレンスキー政権を転覆させた後には親露派政権を樹立し、ロシアの圧力下で「中立化」や「非軍事化」を宣言させるのではないかとみられている。

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