元外交官の作家、佐藤優(62)は、外務省をめぐる背任事件で東京拘置所に勾留中、あさま山荘事件の実行犯の1人で死刑囚の坂口弘(75)と隣房になった経験を持つ。決して交差することのない壁越しでの無言の交流。事件から50年がたち、佐藤はかつての〝隣人〟の面影を思い起こしながら、その教訓をくみ取ろうとする。
《平成15年4月、勾留中だった佐藤は、東京拘置所の「三十二房」に移った》
週に1、2回、隣房の人が映画を見ていることに気づいた。看守に訊くと「確定者だけ。わかるでしょ」と言われ、死刑囚だと理解した。ある日、ひげそりをするために房に電気カミソリを入れてもらうと「三十一房 坂口弘」と書かれたものが来た。今思えば、私が隣のことを気にかけていることを知っていた看守がそっと教えてくれたのかもしれない。