話の肖像画

桂文珍(22)面白いことに飛びつくクセ

(桐山弘太撮影)
(桐山弘太撮影)

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《文珍さんのたくさんの趣味の中に「乗馬」がある。テレビ時代劇の『暴れん坊将軍』で白馬にまたがる上様(うえさま)のカッコよさに憧れて、50歳を過ぎてから始めた。ところがすっかりハマってしまい、「モンゴルの草原を思いっきり馬に乗って駆けてみたい」と…》


モンゴルには2度行きました。一度はテレビの番組で、もう一回はプライベートでした。乗馬教室で一緒だった方に誘われたのがきっかけです。「モンゴルへ馬に乗りに行くんだけど、一緒に行かない?」といわれて、僕は「ハイ、行きます!」って。

それは気持ちよかったですよ。どこまでも続いてゆくような青い空と草原を馬に乗って思い切り、駆けてゆく…。あれは「何もない豊かさ」ですね。

私が阪神大震災(平成7年)で被災したせいかもしれませんが、「モンゴルの人たちは、あらゆる災害に遭(お)うても生きていけるんやろなぁ」と思わせる、たくましさを持っていました。

彼らは、大自然への畏敬の念と、その恵みにあずかって生きている感謝の気持ちを忘れない。そんなことを感じさせてくれましたね。


《モンゴル人の移動式家屋「ゲル(パオ)」の生活も体験させてもらった》


彼らはそれをアッという間に建て、また、アッという間に畳んで移動するんです。無駄なものは一切持たない…。

食料にする、ひつじのさばき方も見事でした。山のようにたくさんいるひつじの中から「どれ食べます?」って聞かれても、僕は「任せます」と答えるしかない(苦笑)。

すると彼は、鞍(くら)もつけていない、はだか馬にサッとまたがるや、一瞬で1頭のひつじを捕まえ、馬の背中に乗せてしまう。さらにひつじの足をキュキュッとしばり、天と地にお祈りをささげた上で、心臓にショックを与え、一滴の血も流さずに、仕留めてしまうのです。見事でした。


《モンゴルでは、いろいろな経験をさせてくれた》


そしてひつじの腸を洗って、ソーセージをつくるんです。味付けは塩だけ。このときに食べたひつじのおいしかったことといったらありませんでしたよ。

あるとき、彼らから「キャンプへ行こう」と誘われたんです。僕は「えっ? ここ(草原のゲル)がキャンプじゃないの?」って(苦笑)。どうやら彼らにとって、「水のある場所」へ行くことがキャンプらしい、と後で分かりました。

このモンゴル行きは偶然、同国を訪問された秋篠宮さまと紀子さまご一行と同じ飛行機に乗り合わせたり、ウランバートルで(作家の)司馬遼太郎先生の本に出てくるホテルに泊まったり、そして後日、司馬先生にお会いできたりと、今ではいい思い出です。


《今は民間人でも宇宙旅行へ行ける時代になった。文珍さんも宇宙への夢を描いて、エラい目に遭ったことがある》


もう、かなり前の話ですが、アメリカで「宇宙旅行のツアーができた」と聞いて、すぐに前金を払(はろ)うたんです。

総額ウン千万円の1割くらいでしたかな。僕には、面白いことが目の前にあると、すぐ飛びつくクセがある。すると、後日ちゃんと予約票が送られてきて、席まで指定されているではありませんか。

ところが、その後に「当社は倒産しました。前金は返金できかねます」って手紙が来たんです(苦笑)。

まぁ、夢を買ったつもりであっさりあきらめましたけど…。(聞き手 喜多由浩)

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