2度の閉館危機に瀕した老舗映画館、コロナ禍に挑む 埼玉

タイル張りの昔ながらの外観が特徴的な映画館「川越スカラ座」=埼玉県川越市(深津響撮影)
タイル張りの昔ながらの外観が特徴的な映画館「川越スカラ座」=埼玉県川越市(深津響撮影)

今年で創業117年を迎える埼玉県川越市の映画館「川越スカラ座」は、これまで2度にわたり閉館の危機に直面しながらも、施設に対し強い思い入れを抱く人たちの尽力で難局を克服してきた。そして、3度目の苦境は、目下の新型コロナウイルス感染拡大に伴う経営への打撃だ。「映画館を愛する人がいるから続いている」。支配人の舟橋一浩さん(50)は、コロナ禍を乗り越え、守り続けてきた文化の灯を次の世代につなぐことを誓う。

「蔵造りの町並み」で知られる観光地・川越市。大通りから離れたひなびた雰囲気の路地に川越スカラ座はある。タイル張りの昔ながらの外観が目を引く。

明治38年に寄席「一力亭」として開業、昭和15年に映画館「川越松竹館」に衣替えし、38年に川越スカラ座へと改称した。川越市の娯楽の歴史を1世紀以上つむいできた老舗だ。

1度目の危機は平成19年5月に訪れた。約50年間にわたり務めてきた当時の支配人が高齢を理由に引退し、後継者がいないことからいったんは閉館した。

この際に映画館を存続させようと立ち上がったのが舟橋さんら地元の有志8人だ。運営を担うNPO法人「プレイグラウンド」を設立、1口1万円の賛助会費を募って人件費や賃料などに充てる約450万円を集め、同年8月に再開にこぎつけた。それぞれ仕事を持つ8人は無給で映画館運営の業務にあたった。

次の危機は23年3月の東日本大震災だった。計画停電の影響で休業が続き、理事らが自ら閉館を決断したのだ。

しかし、映画館の従業員たちが納得しなかった。「お客さんがいる。簡単には閉められない」。理事側と従業員側の話し合いは平行線をたどり、最終的に、理事のうち6人が退任して代わりに従業員が理事に就くことで決着した。

舟橋さんは「映画館運営以外の『本業』を持っていた理事たちと、客と直接かかわってきた従業員たちとの思いの違いが浮き彫りになった」と振り返る。

曲折を経た川越スカラ座が今、向き合っているのは長期化するコロナ禍だ。令和2年には約2カ月間の休業を経験し、入場料の収入が途絶える事態に陥った。

それでも、映画館の客が自主的に賛助会費を寄せるなどして苦境を支えた。

営業再開後も、座席を124席から83席に減らすなどの対応を強いられている。客の数は感染拡大前に比べて1割程度減少しているが、舟橋さんは「どうにかぎりぎり営業できている。スカラ座を担う後進を育て、10年、20年とやっていけるようにしたい」と前を向く。

重なる危機を克服してきた理由については、「オペラ座の怪人」ならぬ「スカラ座の怪人がいるからではないか」と舟橋さん。「怪人」とは何者かと尋ねると「映画館を愛する人たちの思いでしょう」と笑った。(深津響)

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