4月3日まであべのハルカス美術館(大阪市阿倍野区)で開催中の「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜」展。音声ガイドは人気アニメ「呪術廻戦」の主人公、虎杖悠仁(いたどり・ゆうじ)役で知られる声優の榎木淳弥さんが務めている。初めての音声ガイドに「静かな空間で皆さんが絵画を見るのにふさわしい、邪魔にならない声」を意識したという榎木さん。一足早く東京で開催された同展に足を運んだときの印象を聞くと、「作品から画家の感情が押し寄せてくるような深い感動を皆さんも味わえると思う」と語る。(聞き手は藤井沙織)
筆の流れまで
――美術館はよく訪れますか
榎木 今回が初めてかもしれません。こんなに近い距離で作品を見られるのかと、びっくりしました。本で印刷されたものとは違って筆の流れまで見えて、この繊細さは美術館で見ないと分からないなと思いました。風景画でも人物画でも、画家はその瞬間に感じたことを描いていて、僕らは作品を見て、100年も前の画家の感じたことに触れられる、というのは面白いですね。
――「光の系譜」展はいかがでしたか
榎木 どの作品も題材が日常生活に寄り添っていて、すごく共感しやすい。印象派が当初は美術界から冷たい扱いを受けていたとか、印象派についての知識を得られたのも面白かったです。
――日本ではあまり知られていなかったレッサー・ユリィの作品が話題になっています
榎木 「冬のベルリン」と「夜のポツダム広場」からは、空気の冷たさを感じました。ポツダム広場の当時の活気を描きたいという画家の思いも伝わってきましたね。
――作品を見てみたかった作家はいますか
榎木 ゴッホは人生が悲劇的なので、役者として、作品からその苦悩を感じたいなと思っていました。でも今回展示されている作品はきれいな絵だなと思いました。グジャグジャっていう感情が押し寄せるのかなと思っていたので、意外でした。むしろゴーガンの作品の方が怖さや気持ち悪さがあって、面白いと思いましたね。美しいものは美しいもので魅力的ですけれど、分かりにくさ、気味悪さのあるものが好きです。
難しかった「ヴュ」
――音声ガイドは今回が初挑戦ですが、意識されたことは
榎木 静かな空間で皆さんが絵画を見るのにふさわしい、邪魔にならない声のトーンを意識しました。一番難しかったのが、作家のヴュイヤールの「ヴュ」の発音! 実際に作品を見つけて、「あ、ヴュイヤールの絵だ!」って思いました。苦労させてくれたねって感じで。なのでヴュイヤールの絵も見ていただきたいですね(笑)。あ、でも「ヴュ」をじっくり聞かなくていいです。
――ご自身では音声ガイドを聞いていないそうですね
榎木 自分の声を聴くのは恥ずかしいんですよね、アニメでもナレーションでも。やっぱりちょっと反省しちゃうし…あんまり反省すると疲れちゃうから。その時に出たものだと思って、後はお客さんが楽しんでくれればいいなと、いつも思っています。
――最後にメッセージをお願いします
榎木 美術館の空気の中で見る絵画は迫力が違います。作品から画家の感情が押し寄せてくるような深い感動を皆さんも味わえると思いますので、ぜひ見に来ていただきたいです。
えのき・じゅんや 東京都出身。「呪術廻戦(じゅじゅつかいせん)」の主人公、虎杖悠仁(いたどり・ゆうじ)役、「はたらく細胞BLACK」の主人公、赤血球〈AA2153〉役などアニメ作品の他、映画「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」の主人公、ピーター・パーカー(スパイダーマン)役、韓国ドラマ「イカゲーム」のファン・ジュノ(警察官)役の吹き替えなど出演作多数。