話の肖像画

桂文珍(21)パイロットの腕前はギネス級?

開港した能登空港に自家用機で降り立つ=平成15年7月
開港した能登空港に自家用機で降り立つ=平成15年7月

(20)にもどる

《自分の中で程よい「楽しみ」を持つことが大切、という文珍さん。これほど多趣味な落語家もいないだろう。パイロットは子供のころからの夢。40歳近くになって飛行機の操縦を始め、今も週に1度は飛ぶ》


少年のころからパイロットに憧れていたんですが、目が悪く(近視)て断念しました。落語家になって仕事、仕事と追いまくられ、趣味を楽しむ余裕もなかったんですが、40歳前になって操縦を始めて、すっかりその面白さに取りつかれてしまいました。今はメガネで視力を矯正すれば、大丈夫なんです。

飛行時間はもう約2700時間になるかな。自慢じゃないけど、これからプロのパイロットを目指そうという若い訓練生たちから〝尊敬のまなざし〟で見られるくらいの時間なんですよ、これが。


《昨年、72歳で、飛べる機種の限定変更をする「多発計器飛行証明」という難しい免許を新たに取得した》


普通は「有視界飛行」といって、自分の目で周りの景色(山や海)を視認しながら飛ぶ。これに対して「計器飛行」は計器だけに頼って飛ぶ。暗夜でも、悪天候でも、地表・海面を見ないでも、「計器のみ」で離着陸、飛行ができるという、ナカナカのライセンスなんですよ。

まぁ、芸人でこれを取ったという人は他に知りません。

昨年、僕が取得した「多発計器飛行」の免許は、さらに、たくさんのプロペラを持った飛行機を操縦できるというもの。この年で取得したのは〝ギネスブックもん〟ちゃうかな。

一緒に資格を取ったのは20代の若いコばかり、教官ですら、子供くらいの世代です。「このジイさん、何考えているの?」という視線を浴びながら挑んだんですが、まず、さっきの飛行時間を知ってびっくり。試験に合格したら、僕を見る目が変わりました。それくらい厳しい試験なんですよ。

国土交通省の試験官と一緒に飛行機に乗ってやる実地試験と口頭試問。難しい質問がガンガン来るし、飛行中にひとつのプロペラのエンジンを止めてみたり、わざと前が見えないような状況にしたり、とかね…。大変な試験なんで、1日に1人しかできないんです。


《訓練機は白いボディーの双発プロペラ機で、自宅近くの空港に置いてある。「58バロン」というアメリカ製の小型飛行機だ》


まぁ、訓練費などはそれなりにかかりますが、それは仕方がありません。僕は、落語・ゴルフ・(飛行機の)フライト―をしり取りみたいに順番に繰り返して、自分の中の精神的バランスを取っている。機体もブラッシュアップするけど、芸と脳みそもブラッシュアップする。

危険な目に遭ったことですか?

そんなん何度もありますけど、そういう非常事態にならないように、またなったとしても冷静に対応できるような訓練を日々積んでるんです。もちろん、安全航行がなにより一番大事です。


《再勉強の機会になる》


この年で新たな資格にチャレンジするのは、リ・スタディ(再勉強)のチャンスだと思うから。より難しいものにチャレンジすることで、よりシビアになれるでしょう。そして、そういう積み重ねがあって、初めて安全航行もできる、と思うんですよ。

飛び始めのころは家族は乗ってくれませんでしたが、今は乗ります。〝飛行機仲間〟らとせっせと、地方の温泉めぐりに、もちろん落語会にも飛行機で駆け付けているんです(苦笑)。(聞き手 喜多由浩)

(22)に進む

会員限定記事会員サービス詳細