ビブリオエッセー

この主人公、誰かに似ている 「青空の卵」坂木司(創元推理文庫)

「私は優しくなりたい時、『青空の卵』を読む」とビブリオエッセーの書き出しを友人たちの前で読み始めたら、「あんた、十分優しいやん」とみんなが声をそろえた。冒頭からダメ出しされたわけだが、この小説の主人公に比べれば私もまだまだだなと思う。

推理小説である。といっても複雑な謎解きがあるわけではない。主人公は外資系の保険会社に勤める坂木司。著者と同じ名をもつこの主人公と、親友でひきこもりのコンピュータープログラマー、鳥井真一が身近に起きた事件を解決していく数編の物語が収められている。正確には事件を持ち込むのが坂木で、解明はもっぱら無愛想な鳥井の役目だ。

事件はいずれも人の生きづらさに由来している。数々の性被害に遭い男に恨みを持つ女だったり、事故で障害を負った男と歌舞伎役者、その役者に意味不明の贈り物を続ける女とその夫、なにもしゃべろうとしないひとりぼっちの少年…。それぞれの事情が鳥井によって明かされていく。解決の道はあった。二人のおかげで最後はみんな笑顔で帰っていくのだ。

坂木は私に似ているなと思った。それがこのシリーズにハマった理由でもある。感傷的なところやどこか鈍くて物事の上っ面しか見ていないところ。そして私と同じように小さい頃からいい意味でも悪い意味でも正義感が強く、いつも人助けをしようと心がけている。

私の方は勇気が出せず遠くで見守っていることが多いし、見返りを求める気持ちも幾分はある。私は手助けをする人だが坂木は手を差し伸べる人だ。

つまり推理小説というより、坂木から人に手を差し伸べる勇気をもらえるような気がして愛読している。こんな読み方、おかしいですか?

三重県名張市 乾はる菜(19)

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