「みなし陽性」も負担軽減ならず 長期戦の医療現場

患者の診療が行われる「多摩ファミリークリニック」の発熱外来=川崎市多摩区(同クリニック提供)
患者の診療が行われる「多摩ファミリークリニック」の発熱外来=川崎市多摩区(同クリニック提供)

新型コロナウイルスのオミクロン株による感染拡大で、初期治療を担う医療現場が長期戦を強いられている。発熱外来に殺到する患者に対応しきれず、国や自治体が認めた検査などの省略化は必ずしも負担軽減につながっていない。自宅療養者の中には自覚症状なく容体が悪化するケースもあるが、病床逼迫(ひっぱく)で直ちに救急搬送できない事例も増えつつある。

川崎市多摩区の「多摩ファミリークリニック」は1月中旬から午前中の一般診療を休止し、発熱外来専用で対応している。それでも電話で受け付ける40人の予約枠は1時間もたたずに埋まり、60人近くを断らざるを得ない日もあった。

現在その数は20人ほどに減ってきてはいるものの、大橋博樹院長は「家庭内感染が非常に多い状況が続いている」と説明。1日の間に家族全員が発熱し、3~4人が連れ立って訪れるケースは珍しくない。最近は家族から同居する高齢者が感染したり、感染で高齢家族の介護が難しくなったりするケースも目立つ。

医師と看護師各3人で勤務を回す中、濃厚接触者となった看護師1人が一時欠勤するなど綱渡りの状態で、発熱外来の診療枠を拡大しようにも「身動きが取れない」と大橋氏は訴える。需要が急増する抗原検査キットも2月上旬に200人分を入荷後、入手の見通しは立っていない。

神奈川県などは、感染者の濃厚接触者となった同居家族らに発熱症状などがあれば、医師の診断のみで感染者とみなす「みなし陽性」を容認。医療省略化につながるとされるが、診察や保健所への届け出を行う必要があり、現場の業務負担は大きく変わらない。

オンライン診療を模索する動きも広がるが、不安の声も少なくない。東京都内の診療所で発熱外来を受け持つ男性医師は「患者と直接触れ合い、容体を聞き取ることで診断に責任を持ってきた」と説明。「日頃の診療情報がない患者だと、逆に聞き取りに時間がかかってしまう可能性もある」と苦悩の色を浮かべる。

自宅療養者をケアする往診の現場も悲鳴を上げる。「グリーンフォレスト代官山クリニック」(東京都渋谷区)には保健所からコロナ患者宅への往診依頼が相次ぐが、医師2人で1日にこなせるのはコロナ以外の患者も含め十数人ほどが限界だ。関谷幸世医師は「コロナ患者が増え続ければ、通常の医療が成り立たなくなるリスクが高まる」と危機感を募らせる。

患者の年齢層は若年層から基礎疾患(持病)を抱える中年層や高齢者に移っており、中等症患者が自覚のないまま呼吸症状を悪化させるケースが目立つ。

「酸素飽和度が80%台前半まで低下しているのに患者本人はけろっとしていて、『救急搬送しないと命に関わる』と告げると驚かれることもある」(関谷氏)

酸素投与が必要と判断すれば入院先を探すことになるが、最近は搬送する病院の選定に時間がかかるようになってきた。別の往診現場では、病院が決まるまでに4時間近くかかったという話も耳にしており、昨夏の第5波に近い病床逼迫の高まりを感じている。

1人暮らしの患者だと軽症や無症状であっても、医療にアクセスできないことへの不安感や恐怖心も大きい。発熱や息苦しさなどの症状があった20代女性はめまいを覚え、思わず救急車を呼んだが「病院搬送の必要はない」と判断された。保健所を通じて往診を頼み、関谷氏が駆けつけると、「先生と話せて安心した」と涙を流したという。

関谷氏は「自分の体がどのような状態にあるのか、不安を抱える軽症患者は少なくない。必要に応じ、すぐに医療者とつながれるサポート態勢の構築も急務だ」と訴えた。(三宅陽子)

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