「厳しい水際」実感 おにぎり1個で空港8時間缶詰

待機施設で提供された人気とんかつ店の弁当
待機施設で提供された人気とんかつ店の弁当

「G7(先進7カ国)で最も厳しい」という日本の新型コロナウイルスの水際強化措置を身をもって体験した。記者はオーストラリアへの出張を終え、成田空港に到着してから検疫所の宿泊施設に出発するまで8時間を要した。政府は3月から措置を緩和し、1日当たりの入国者数の上限を引き上げるが、空港の検疫体制が大勢の人をスムーズに入国させることができるのか懸念が残る。

「私はこれからどこに行くんでしょうか…」

成田空港検疫所の待合スペースで隣り合わせたお年寄りの外国人男性が、疲れ切った表情でこう話しかけてきた。眼鏡越しの目はかなり充血している。

「私も分からないんですよ」と答えると、「よかった。僕だけじゃないんだ」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。

記者は、日本と米国、豪州、インドの4カ国の外相会合取材のため2月10~13日の日程で豪メルボルンに出張した。帰路はシンガポール経由で、13日午前7時過ぎに成田空港に到着した。外国人男性が話しかけてきたのは検疫手続きを終え、しばらくたった正午頃のことだ。

同じ便の乗客は到着後、一定間隔を保って2列に並び、移動しながらブースを回って入国準備を行う。まずはスマートフォンに健康・居場所確認アプリ「MySOS(マイエスオーエス)」やスマホ向け接触確認アプリ「COCOA(ココア)」など3つのアプリをインストール。その後、唾液を採取する検査を受け、入国後7日間の待機に応じることなどに関する誓約書を提出する。豪州からの入国の場合、7日間のうち3日間は宿泊施設、残る4日間が自宅での待機となる。

どの施設に行くのかは直前まで知らされない。冒頭の外国人男性が不安に思ったのはこのためだ。

検疫手続きは順調に進み、午前10時前には椅子が並んだ待合スペースに到着した。だが、そこからが長かった。昼食は配られたおにぎり1つ。飲み物はなかった。

検査結果が判明してからも待機は続き、たまりかねたアジア人の女性が「いつまで待たせるのか! 水がほしい」と大声を上げた。「もう少しお待ちください」と繰り返す検疫所のスタッフ。目立たないところに飲料の自動販売機はあったものの、女性は日本円を持っておらず購入できなかったようだ。

空港到着から8時間後の午後3時、ようやく宿泊施設に向かうバスに乗車した。東京都内の施設にたどり着き、部屋に「入所」したのは午後5時前だった。空港に到着してから約10時間が経過していた。

政府関係者によると、時間がかかるのは、バスの手配や施設入所の調整のためだという。家族で入所する場合は人数に応じた広さを検討する必要があり、禁煙・喫煙の希望やアレルギーの有無、宗教的な食事の配慮についても確認している。

成田空港や羽田空港での待ち時間は、曜日や時間帯によって異なるが、平均は2~3時間程度だという。平日よりも休日の方が長くなる傾向がある。

記者の待ち時間が8時間と長かったのは、日曜日の朝で、到着便数が集中した時間帯だったことに加え、それぞれの便の乗客数も多いといった条件が重なったためとみられる。

岸田文雄首相は17日の記者会見で、3月から水際措置を緩和すると表明した。1日当たりの入国者数の上限を現行の3500人から5000人に引き上げる。

入国者数が増えれば、空港の検疫所の負担が増え、待ち時間が一層、長くなる可能性がある。「空港での検査や施設への入所を維持する限り、待ち時間の問題は解消されない」と政府関係者は懸念を示すが、政府は、3月中は入国者に対する空港での検査や施設への入所を続ける方針だ。

記者が豪州に入国した際は、ホテルの自室で迅速抗原検査を行った。自分で検体を採取し、15分ほどで結果が分かる簡易なもので、陽性が判明した場合のみ在シドニー総領事館に知らせる。

現在、日本には1日当たり2000~3000人が入国し、うち50~100人の陽性者が確認されている。引き続き厳しい水際対策を求める声もあり、検疫所を所管する厚生労働省の関係者は「今後、空港での検査をやめることに対して国民の理解が得られるかどうかは分からない」と語る。

ただ、検査そのものに要する時間は1時間程度とそれほど長くはない。時間がかかる施設入所の調整がなくなれば検疫所の負担は軽減され、待ち時間の問題はかなり解消されるはずだ。

政府もこうした状況は見越している。3月からの規制緩和で3回のワクチン接種など一定条件を満たせば感染のリスクが高い国から入国した場合でも自宅待機を認める。感染リスクの低い国からならば待機そのものを免除する方針だ。厚労省も検疫所での手続きの電子化など時間短縮に向け知恵を絞っている。

空港での待ち時間は長かったが、施設は清潔で通信環境も良く、こまやかな配慮に日本らしさを感じた。食事は1日3回、部屋の前まで運ばれる。いずれも無料で、都内の人気とんかつ店のお弁当などもあり恐縮した。

3月以降はビジネスや学びのために日本に来る外国人が増える。日本にネガティブな印象を持たれないよう、空港での待ち時間の短縮に向けた一層の取り組みが求められている。(長嶋雅子)

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