クリップ!

「名探偵」を人間に戻す 池松壮亮

池松壮亮
池松壮亮

金田一(きんだいち)耕助といえば、石坂浩二、古谷一行ら数々の名優が演じてきた日本が誇る名探偵だ。その名探偵の歴史に、「新たな金田一耕助像」が刻まれつつある。横溝正史の原作を忠実に映像化するというコンセプトで生まれた「横溝正史短編集」で、平成28年、令和2年に続き、三たび金田一を演じる。

「第1弾、第2弾では、(石坂の金田一シリーズの映画を撮った)市川崑監督が『天使』と評した金田一耕助のイメージだったが、今回のテーマは『惑う』。そこで今回は、金田一を人間に戻してあげたいと思いました」

人間に戻すとはどういうことか。

「金田一は戦後の更地で人々の憎悪や混乱をひょうひょうと引き受けた印象がある。もしかして、すごくかわいそうな人物ではないかという気がして…」

事件を解決するという「仕事」をしながら、多くの人の死を目の当たりにしてきた金田一。人の死に対して、もっと言えば人に対して、執着を捨てて生きてきたのではないか。「金田一も人間ですから。キャラクターとしてとらえられ過ぎてきた金田一を、どう再解釈してアップデートできるかを考えました」

第3弾に選ばれたのは、「女の決闘」「蝙蝠(こうもり)と蛞蝓(なめくじ)」「女怪(じょかい)」の3つの短編。映画やドラマ、CMで活躍する3人のディレクターがそれぞれ演出を担当し、原文をなるべく生かす形で場面を切り出し、各29分の映像にした。

「女の決闘」は、流行作家と元妻、現在の妻の微妙な関係から、金田一が事件を解決していく物語。「蝙蝠-」では、金田一は主人公から嫌われながらも鮮やかに真相を暴く。

3本目の「女怪」は、あこがれの女性に失恋する金田一が描かれた、少し毛色の異なる作品。「ホスト役として事件を解決していくこれまでの金田一ではなく、ひとりの女性に恋をした金田一が、その青春と決別する物語。とても人間的な金田一を見ていただける気がします」と語る。動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の動画から着想を得たというダンスにも注目だ。

「細々とやっているシリーズですが、中身はぎゅうぎゅうに詰まっている。今回はさらにパワーアップしているので、楽しんでもらいたいです」

新たな金田一に、視聴者も惑い、翻弄される90分となりそうだ。(道丸摩耶)

いけまつ・そうすけ 平成2年生まれ、福岡県出身。13年、劇団四季のミュージカル「ライオンキング」のヤングシンバ役でデビュー。映画「ラスト サムライ」(15年)でトム・クルーズ演じるアメリカ軍人と心を通わせる少年を演じて注目を浴びる。26年の映画「愛の渦」「紙の月」「ぼくたちの家族」の3作品で、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。来年公開予定の映画「シン・仮面ライダー」では、仮面ライダーを演じる。

「横溝正史短編集Ⅲ 池松壮亮×金田一耕助3 ~金田一耕助、惑う」はNHKBSP、26日午後11時。

会員限定記事会員サービス詳細