IOCは独裁国家との〝共犯〟に終止符を

北京市内の借家を暴力的に追い出され、派出所内での生活を余儀なくされている倪玉蘭さん(本人提供)
北京市内の借家を暴力的に追い出され、派出所内での生活を余儀なくされている倪玉蘭さん(本人提供)

「五輪は私たちに大きな災いをもたらした。住居は取り壊され、家財道具も没収されたのです」

こう話すのは、2008年の北京夏季五輪を機に北京市西城区の自宅を追い出された元人権派弁護士、倪玉蘭(げい・ぎょくらん)さん(61)だ。土地強制収用の被害者を支援していた彼女は弁護士資格を剝奪(はくだつ)され、当局者の暴行で足が不自由になった。夏季五輪後は政府の圧力で借家を追われ続け、警察の派出所のロビーで夫と生活していた時期もある。今は路上生活だという。

「今回の冬季五輪で、私たちが経験した苦難を再び多くの人が味わっただろう」と倪さんは語る。

実際、雪上競技会場の河北省張家口市崇礼では少なくとも数千人が立ち退きを強いられた。高速鉄道駅「太子城駅」に近い太子城村などの集落が、施設建設や外観美化を理由に徹底的に取り壊されたのだ。

五輪の競技会場にある大型モニターには、マスクから鼻を出した外国人記者の顔画像が「マスクなし」の通報案件として、指名手配写真よろしく表示された。国内には6億台以上の監視カメラがある。警察当局は五輪警備を通して、国民の監視能力も一層高めた。

習近平政権が五輪で得たものは大きい。巨大イベントの開催により国内外に習氏と共産党の威信を示した。中国勢が過去最多のメダルを獲得し、国民の愛国心は高揚した。新疆ウイグル自治区の人権弾圧に対する世界の目もそらした。

国際オリンピック委員会(IOC)にとっても、権威主義国家で五輪を開催するメリットは大きかった。コロナ禍でも国民から開催反対論が噴出することはなく、公金負担の是非を問う住民投票もない。中国当局は開催費を過去20年間の冬季五輪で最小の39億ドル(約4500億円)と見積もったが、実際の総経費は10倍近い385億ドル(4兆4千億円)以上だと米メディアは試算している。

中国共産党体制は1980年代以降の改革開放で、西側諸国の資金と技術を吸収し、資本主義のプレーヤーとして「カネこそ正義」とばかりに肥大化した。その一方で、先進国を恫喝(どうかつ)し独裁国家の本性を現すようになった中国に対して、民主主義諸国は協調路線を放棄しつつある。

いまだIOCは、強権体制によって滞りなく大会を開催できる中国に魅力を感じているようだ。2008年に大地震に見舞われた四川省成都などでは夏季五輪招致を模索する動きもある。

IOCが今後も独裁国家との相互依存に傾斜するならば、高尚な理念を掲げる五輪の価値は一層損なわれていくだろう。(北京 西見由章)

競技一覧

会員限定記事会員サービス詳細