強制不妊手術訴訟 22日に初の高裁判決、除斥期間の壁どう判断

旧優生保護法下の昭和40年代に不妊手術を強制され憲法が保障する自己決定権を侵害されたとして、男女3人が国に計5500万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が22日、大阪高裁(太田晃詳(てるよし)裁判長)で言い渡される。大阪地裁判決は、旧法を違憲と認定しつつも、手術から提訴までに20年の「除斥期間」が経過し、賠償請求権が消滅したことを理由に訴えを棄却した。これまで、全国の地裁が同様の理由で被害者の訴えを退けており、初の高裁判断に注目が集まる。

大阪の裁判の原告は、いずれも聴覚障害のある高齢夫婦と、知的障害のある70代女性の3人。夫婦の妻は昭和49年、帝王切開の際に知らぬ間に不妊手術を施され、子供は出産後に死亡した。70代女性は、日本脳炎の後遺症で知的障害となり40年ごろに手術を受けさせられた。

大阪高裁=大阪市北区
大阪高裁=大阪市北区

被害者が国に賠償を求める訴訟は近年、全国各地で起こされた。判決が出た6地裁のうち大阪、仙台、札幌、神戸の4地裁は旧法を違憲と認定したが、いずれも不法行為から20年で賠償請求権が自動消滅する「除斥期間」を適用し、国の賠償責任は認めなかった。

除斥期間は、権利関係の安定を目的とした民法上の解釈に基づく制度。この枠組みの例外として、最高裁で賠償が確定したのは、殺人事件の被害者遺族が、加害者による犯行を知らないまま26年が経過したケースなど過去に2例しかない。いずれも不法行為から20年以内での提訴自体が、相手方の行為によって困難だったことが認められている。

過去の最高裁判断を踏まえ、原告側は、そもそも被害者が訴訟を起こすことができなかったのは、国の責任だとの主張を展開した。

強制不妊手術をめぐっては、国は平成8年に旧法が障害者差別に当たることを認め、手術の規定を削除。16年には当時の厚労相が被害者救済を「考えていきたい」と国会で述べ、補償の必要性に言及した。ただ、過去の手術は合法だったとの姿勢を崩すことはなく、被害の実態調査にも消極的だった。

原告側は、こうした状況下では「賠償請求権の存在自体を認識できなかった」と主張。また、「強制不妊手術は国による戦後最大の人権侵害」であることを理由に、20年の除斥期間の概念を今回の裁判に適用すべきではないとし、仮に適用するとしても不法行為の起算点は、当時の厚労相が補償の必要性に言及した16年以降と認定すべきだと訴えている。

「外で子供を見ると涙が出てくることもある。今でも悔しい」

判決を前に、取材に応じた聴覚障害のある原告の女性。帝王切開後もずっと子供が授かるのを待ったが、望みが断たれていたことを後に知った。

「母が不妊手術を受けさせたと思い、何度も問い詰め、けんかをしたが、悪いのは国だった。手術から20年で国の責任が帳消しとなるのはおかしい」

被害者の思いに沿う判決を期待している。(地主明世)

旧優生保護法 「不良な子孫の出生防止」を目的に昭和23年、議員立法で制定。知的障害や遺伝性疾患を理由とする不妊手術を認めていたが、平成8年に障害者差別に当たる条文を削除し、母体保護法となった。国の統計では、不妊手術を受けたのは約2万5千人、うち約1万6500人は強制とされる。


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