19日に行われた北京冬季五輪のスピードスケート女子マススタートで、前回優勝の高木菜那(日本電産サンキョー)は1回戦2組の最終周で転倒して敗退した。
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4日前と同じ悪夢に襲われた。最終カーブの出口付近で左足に乗り切れず、転倒した高木菜の小さな体は吹っ飛んだ。2連覇への挑戦は、決勝を滑ることなく幕を閉じた。
他の選手の厳しいマークを受ける中、4周ごとの上位通過選手に与えられるポイントをなかなか取れない。1回戦通過に後がなくなり、最後の勝負に出たところ、カーブで転倒した。「どういうふうにレースをしたらいいのかが分からない部分がたくさんあった」と下を向いた。
マススタートに出るのは2季ぶりだった。「正直もうやりたくないという気持ちが。人とぶつかるのも嫌だし、掛け合いも怖いし」。前回2018年平昌五輪女王の偽らざる本心だった。
平昌五輪では団体追い抜きとあわせ2冠に輝いた。その後もおごることなく、「まだまだ世界では戦えていない自分がいる」と真摯(しんし)に練習に取り組んできた。
運命は残酷だった。7日の1500メートルでは同走の中国選手と重なり、レーンの入れ替えがスムーズにできなかった。15日の団体追い抜き決勝ではゴール間近で転倒し、涙を流した。
15日のレース後、「自分のせいで2番になった」と責任を背負い込む自身を責める人は誰もいなかった。むしろ、届けられたのは多くの励ましの声。「応援してくださった方々には感謝している」としみじみと口にした。
望んでいた結果は得られなかった。でも、温かい多くの心にふれることができた。その顔に涙はなかった。(橋本謙太郎)