広島市安佐動物公園(同市安佐北区)で誕生したアミメキリンの雌「はぐみ」が4月で2歳になる。生まれたときは両方の後ろ脚の障害のために、立つこともままならなかった。だが、飼育員や獣医師、広島国際大によるサポートで、すくすく成長、今では不自由なく、おてんばぶりを発揮している。その元気な姿の裏には、昨年死んだキリコの存在もあった。
おてんばでいたずらっ子
小雪の舞う2月。日が照るたびに飼育舎から顔をのぞかせ、仲間たちとともに気持ちよさそうにひなたぼっこを楽しむはぐみの姿があった。後ろの両脚には、もうギプスも装具もない。
「1歳を過ぎて広い放飼場に出すようになってからは、お母さんのメグミをほったらかして、マイペースで好きなように散歩しています」とほほ笑むのは、飼育員の堂面志帆さんだ。はぐみの名付け親で、ずっと成長を見守ってきた。
まもなく2歳を迎えようとしているはぐみ。堂面さんによると、何にでも興味津々で怖いもの知らずのおてんばさんだという。
「いろんなところに首を突っ込みに行く、いたずらっ子。人が持っているものが気になるようで、掃除中にほうきを口にくわえてどこかに持っていったり、落としたり、かじったり。おもちゃにしてしまいます」と笑う。
最近は白菜の芯が好物だそうで、いい音を立てながら、おいしそうにほおばっているという。本当に元気いっぱいだ。
生まれた日にギプス固定
2年前の4月9日。朝、堂面さんが産室に行くと、頭だけ起こしてうずくまる赤ちゃんキリンに気づいた。体が乾いていたことから、母親メグミの出産から時間が経過しているように思われた。
後ろ脚の異常もすぐ気づいた。球節が正反対の前方向に折れ曲がっている。「屈腱弛緩(くっけんしかん)」という腱の異常。「すごくショックでした。この子はどこまで頑張って生きていけるのだろうと」と堂面さん。何度も立とうとするが、正常な状態で立つのは難しかった。
だが、獣医師らの判断は早かった。生まれた日に両後ろ脚にギプスを巻いて固定。数日後には、自力歩行やメグミからの授乳ができるようになった。
大学の協力で装具を開発
歩けるようにはなったが、体重増加に伴い、ギプス破損の頻度が増えた。ギプスによる固定は骨や筋肉を動かせず、成長も妨げることになり、ギプス治療での完治は難しかった。
そこで、安佐動物公園では広島国際大総合リハビリテーション学部に相談。義肢装具士の講師らの協力で、ギプスの代わりに後ろ脚をサポートする装具の開発を始めた。キリンの装具作りは初めてで、手探り状態だったが、6月には装具1号が完成した。
だが装具1号は、ずれるなどして痛みも生じ、すぐに外してギプスに戻すことに。その後も試行錯誤を繰り返し、3度にわたって装具は改良されたという。
はぐみは、装具を着けて歩行を繰り返したことで屈腱弛緩の症状が改善。筋肉や腱も発達して、誕生から約8カ月後の令和2年11月には、後ろ脚の両方ともに装具を着けずに歩行できるようになった。
キリコの治療
はぐみへの治療は、昨年死んだはぐみの祖母、キリコへの治療経験も生かされていた。
はぐみが生まれる約2カ月前、キリコが後ろ脚を負傷したことがあった。このとき、獣医師らの研究と治療で、危険を伴う処置だったが、キリコへの麻酔をかけ、ギプスを巻く治療を経験していた。
麻酔は、キリンには生死にかかわるほどリスクの高い処置。かけ始めや覚醒時に転倒の危険があるほか、反芻(はんすう)動物で胃が大きく、横たえたときに吐き戻しによる窒息の危険などがあるからだ。
はぐみのギプスの交換や装具のための足型取り作業には麻酔が必要で、麻酔は約4カ月間に10回以上に及んだ。
「キリコさんの経験がなかったら、はぐみへの処置は判断が遅れたり、もっと悩んだりしていたと思う。キリコさんの麻酔がうまくいったから、はぐみの処置の判断も早かった」と堂面さんは振り返る。
キリコは昨年5月17日、はぐみの成長を1年以上そばで見守りつつ、24歳5カ月であの世へ旅立った。はぐみは日々成長。安佐動物公園の人気者として、元気いっぱいに走り回っている。(嶋田知加子)