銀盤に笑顔の花を咲かせた。フィギュアスケート女子フリーに登場した坂本花織(かおり)(21)が堂々の銅メダル。五輪への重圧からか落ち込む時期もあった日本のエースを支えたのが、素顔を知る親友の言葉だった。「かおちゃんなら、できる」。努力は結実すると信じ、挑んだ4分間。自己ベストを更新する渾身(こんしん)の演技で、強豪のロシア・オリンピック委員会(ROC)勢に割って入った。
笑顔を絶やさず、ムードメーカーとして知られる坂本だが、昨年はどこか沈みがちだった。5歳から同じスケートクラブで練習をともにする同志社大の籠谷歩未(かごたにあゆみ)さん(21)が目撃したのは、振り付けの習得に苦闘する姿。五輪イヤーを控え、人知れず重圧を感じていたのかもしれない。籠谷さんはそのたび「大丈夫だって」と励まし続けた。
坂本はNHK連続テレビ小説「てるてる家族」でフィギュア選手だった主人公の姉に憧れ、4歳でスケートを始めた。籠谷さんとは「かおちゃん」「あゆ」と呼び合う仲で、「親友というより家族のような存在」(籠谷さん)だ。
2018年の平昌五輪6位を経て、坂本は日本女子のエースに成長。仲間としてライバルとして、常にそばにいた籠谷さんが知る坂本は向上心の塊だ。幼少期から、ライバルに追いつこうとスケートクラブの時間外も懸命に練習を重ねる様子を見たことがある。一方でリンクを離れると表情は一変。同じ競技者として、オンとオフの切り替えのうまさにも感心させられた。
北京五輪出場を懸けた昨年12月の全日本選手権。坂本は競技前、緊張した面持ちで籠谷さんに胸の内を明かした。「心臓が飛び出そう」。しかし、本番では会心の演技を見せて優勝。2大会連続で五輪切符をつかむと、とびきりの笑顔で「有言実行できて心がスカッとした」。迷いはもう消えていた。
この日、全ての力を出し尽くし、感慨深げに天を見上げた坂本。笑って泣いて、「うれしい以外に言葉が出ない。今まで頑張ってきたことが報われた」と万感の思いに浸った。
かおちゃんなら、できる―。親友が信じた通り、北京の地で自分らしさを体現してみせた。(桑村大)