昆虫の生体画像を撮影する話で、今回は持ち帰った昆虫を撮影する過程について紹介します。私は一眼レフカメラにマクロレンズを装着し、被写体である昆虫が映える、データサイズが小さくて済む、編集作業が楽-といった理由から背景が真っ白な「白バック写真」を主に作製しています。
撮影から画像の完成までは「昆虫を容器から出して白い板の上に乗せて撮影した後、各種設定をパソコン上で操作して画像を完成させる」。簡潔に書くとこれだけなのですが、被写体は生きている小さな昆虫です。種類によって活発さが違うため、撮影の難易度も異なります。
例えば、ゾウムシ類は比較的撮影が楽です。元気な個体であっても動きがゆっくりしており、長時間じっとしてくれることも多いため、ピントを合わせやすいのです。
一方、クワガタムシなどはしばしば死んだふりをします。ただ、待っているとだんだん緊張が解けて歩き始めるため、手間はあまりかかりません。砂の中からほじくり出したアリジゴク(ウスバカゲロウの幼虫)も動きが鈍いので、体表面に付着した砂の除去作業を除いては楽な部類です。
しかし、このように容器から取り出してすぐに撮影できる昆虫はごく一部。ほとんどの種類で活動をある程度抑制する必要があり、麻酔をかけたり、低温条件下で動きを鈍らせたりします。麻酔ではボンベに装填(そうてん)された二酸化炭素を使います。昆虫の入った容器のふたを少しだけ開けてボンベにつながったホースの先端を突っ込み、ボンベのバルブを少し開いて二酸化炭素を注入するのです。
こうすることで昆虫はすぐに動きが鈍くなり、一定の間は全く動かなくなります。こうなれば逃げる心配がないため安心して容器から取り出し、撮影台に載せることが可能に。その後、何となく脚や触角が動き始め、歩行を始めようするのは数分たってのことです。
「そろそろだな…」と思ったら、息を「フッ!」と吹きかけたり、指やピンセットで「ツン!」と突いたりします。すると一気に緊張し、動きが止まるため、撮影しやすくなるのです。
冷蔵庫で冷やした場合も同様に、タイミングよく刺激を与えることでポーズを固定できます。しかし、麻酔から急激に覚醒してしまったり、「大丈夫だろう」と麻酔をサボって容器から取り出したりするとさあ大変。大騒ぎしながら、逃げた昆虫を捕獲する羽目に。ここまでの作業を終えるとまずは一安心。次はいよいよ撮影データの操作です。 (つづく)
(和歌山県立自然博物館学芸員 松野茂富)