社説検証

対中国人権決議 産経「忖度とは情けない」 対話に力を尽くせと朝日

北京冬季五輪の聖火最終ランナーには、ウイグル人の女子選手(左)が起用された (共同)
北京冬季五輪の聖火最終ランナーには、ウイグル人の女子選手(左)が起用された (共同)

衆院が新疆ウイグル自治区や香港での人権問題に懸念を表明する決議を採択した。昨年来の逡巡(しゅんじゅん)の末、北京冬季五輪開幕の直前になってようやく、国会として意思表示をした。「中国」と明示せず、「人権侵害」や「非難」の文言が削除されるなど、文面は中国への配慮をにじませた。

「日本の国会が中国政府におもねり、中途半端な決議をしたとして記憶されるのではないか」。最も手厳しく決議を批判したのは産経である。「日本ウイグル国会議員連盟などの関係者が、対中人権侵害非難決議の実現へ奔走してきた労は多としたい。だが、実際の決議は自民、公明両党の執行部によって骨抜きにされてしまった。弾圧に苦しむ人々にもっと寄り添うべきだったのに、弾圧の張本人である中国政府に忖度(そんたく)したのは情けない」と嘆じた。

100万人超のウイグル人の強制収容が指摘されるなど、中国の人権弾圧は重大な問題として世界の関心を集め、米英などによる五輪の「外交的ボイコット」にも発展した。日本では昨春、国会の非難決議を求める声が上がったが、中国の反発を恐れて通常国会、臨時国会では見送られ、産経は、その度に主張(社説)で苦言を呈した。五輪直前の駆け込み的採択となった決議はあいまいだ。フランス下院決議などが、中国は新疆ウイグル自治区でジェノサイド(集団殺害)を犯(おか)していると、ずばりと非難したこととは比べようもない。

産経は、衆院で中国の人権問題に関する公聴会を開くよう提案した。「不妊手術を強要された後、亡命したウイグル人女性ら多くの被害者から人権侵害の実態を聞くべきだ。それを報告書にまとめて公表し、中国政府や全国人民代表大会(全人代)にも示して是正を迫ったらどうか」と呼びかけた。

日経は、中国の名指しを避けたことやメッセージがあいまいになったことに言及しつつ、「北京冬季五輪の開幕前に国会として意思を示したのは評価できる」と肯定的に捉えた。「新疆ウイグル、チベット、南モンゴル(内モンゴル自治区)、香港などを列挙し、中国国内での信教の自由への侵害や、強制収監への懸念を指摘した。日本政府にも事実関係に関する情報収集と包括的な施策の実施を求めたのが特徴だ」と論じた。

毎日は決議そのものに関する論評は避け、採択までの曲折で、「浮き彫りになったのは、政府も自民党も対中外交の戦略を欠いていることだ」との見解を示した。「米中対立が激化する中、強権的な政治姿勢を強める隣国とどう向き合うかが問われている。にもかかわらず、保守派の突き上げに政権が翻弄される場面が目立ち、理念や方針が見えない」と難じた。

読売と東京は、人権決議採択を取り上げなかった。

朝日は、中国の人権侵害を見過ごさず懸念を表明するのは、日本の国会として当然のことだとし、中国外務省が「きわめて悪質」などと決議に反発したことを踏まえ、「中国へのメッセージにはなっただろう」と意義を見いだした。一方で、「台頭著しい隣国にいかに向き合うべきかは、日本にとって極めて重要な課題である。重層的な関係の構築に向け、議員外交の強化など、対話にも力を尽くすべきだ」と説いた。

朝日は、新疆ウイグル自治区の人権状況に注文を付ける以上、国連や米国務省などが指摘する日本国内の人権問題の改善も必要だとし、「入管施設での外国人の処遇には問題が多く、外国人労働者らを守る制度も不十分だ。部落差別など解消されていない課題も多い。自ら襟を正してこそ、他国に人権改善を求める説得力が増す」と説いた。

聖火リレーの最終ランナーの一人として、中国政府が起用したのは、新疆ウイグル自治区出身の女子選手だった。人権問題などないとアピールしたかったのだろうが、この問題でいかに神経質になっているかを露(あら)わにしただけではなかろうか。(内畠嗣雅)

■衆院・対中国人権決議をめぐる主な社説

【産経】

・与党の「覚悟」が問われる (1月22日付)

・衆院は中国におもねった (2月2日付)

【朝日】

・重層的な関係にも力を (2月3日付)

【毎日】

・対中戦略欠いたままでは (2月2日付)

【日経】

・中国は人権の懸念に向き合え (2月2日付)

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