被害者の「体験」は幻覚か、現実か-。手術後の女性患者にわいせつな行為をしたとして、準強制わいせつ罪に問われた医師の上告審判決が18日、最高裁第2小法廷(三浦守裁判長)で開かれる。争点は、女性が陥った可能性がある意識障害の影響と、検出された医師のDNA型に対する評価。今年1月の弁論でも弁護側と検察側の主張は真っ向から対立しており、判断が注目される。
乳腺外科医の関根進被告(46)は平成28年、東京都内の病院で、全身麻酔で手術を終えた直後の女性患者の胸をなめるなどのわいせつな行為をしたとして起訴された。
証拠とされたのは、女性本人の証言と、女性の胸から被告のDNA型が検出されたとする鑑定結果。公判で弁護側は、女性は麻酔により「せん妄」と呼ばれる意識障害に陥り、この影響で「性的な幻覚を見た」と主張。DNA型については「飛沫(ひまつ)により付着した可能性がある」と指摘した。
1審東京地裁は、女性の証言が「具体的で迫真性に富み、一貫性もある」としたが、手術に多量の麻酔薬を使ったことなどから、せん妄に陥った可能性を示唆。DNA型は「会話や触診で付いた可能性が排斥できない」とし、無罪(求刑懲役3年)を言い渡した。
一方、2審東京高裁は、女性の証言は1審同様「迫真性がある」とした上で、女性が直後に無料通信アプリで知人に被害を訴えるメッセージを送っていたことなどから「せん妄に伴う幻覚は生じていなかった」と判断。DNA型鑑定の結果は「証言の信用性を補強している」として懲役2年の実刑が相当と結論付けた。
これを不服として弁護側は上告。同小法廷は今年1月21日、2審の判断を変更する際に必要な手続きである弁論を開いた。
弁護側は、高裁が採用し逆転有罪の根拠の一つとした、「性的幻覚はなかった」とする医師の意見について「精神医学の専門家らが依拠する診断基準を全く無視し、独自の基準に基づき意見を述べた」などと反論。
また、公判では女性の胸から検出されたDNA型の有無ではなく、量の多さが問題となったが、検察側が示した鑑定経過に関する警視庁科学捜査研究所のデータは改竄(かいざん)が容易な鉛筆書きで、DNA型の量の鑑定に使った試料の残りはすでに廃棄されたとも指摘。「再検証できなければ科学的な証拠とはいえない」などとして、鑑定結果を証拠から排除すべきだと訴えた。
これに対し、検察側は「女性の証言の信用性は関係者の供述などでも裏付けられており、せん妄の可能性を考える必要はない」と強調。鑑定についても「適切に行われた」とした。(原川真太郎)
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せん妄 脳の機能不全による意識・精神障害の一種。アルコールや薬物、手術などが原因で、一時的に意識の混濁や錯覚、幻覚などが起きる。高齢者だけでなく若者でもみられ、発症時には本人の自覚がないことが多い。