最終コーナーに入る付近まで、先頭に立っていた。15日行われたノルディックスキー複合男子個人ラージヒルで、渡部暁斗(北野建設)は最後のスプリント勝負に屈して3位だったが「執念ですね。今季の自分を考えるとこれが精いっぱい」。ゴール直後は右拳を握った。
悲願の金メダルには0・6秒届かなかったが、3大会連続でのメダルは偉大だ。後半の距離は5位から始まり、54秒前にスタートした1位のリーベルがコースを間違えるアクシデントもあって先頭集団を引っ張った。走力のあるランパルターに追いつかれたが、振り切った。
33歳になり、省エネで走る技術や豊富なレース経験による駆け引きのうまさは年々熟成され、「体力の低下をカバーしている感じがある」。年齢を重ねても、走力面では引けを取らない感触があった。
9日のノーマルヒルは、前半の飛躍で9位と出遅れたことが響き、メダルに届かなかった。修正のきっかけは、トレーナーからの助言だった。「踏み切りで力が入らないといけない筋肉や部分に、神経が通っていなかった感じ」と独特の表現で説明し、踏み切りの修正に着手。「今日はうまく出せた」と手応えがあった。しっかり足が使えるよう改善したことで助走姿勢もよくなり、飛躍の改善につながったことが、表彰台を手繰り寄せた。
「登ったことない山があるから行ってみたい」。これまで、金メダルへの道を登山に例えてきた。5度目の五輪でも個人種目では頂に届かず「(登り方は)分からなかった。手を伸ばしてつかもうとすればするほど、こぼれてしまう」。悔しさもにじんだ。
今季のW杯では表彰台が一度もなかったが、五輪できっちりメダルを手にする。日本複合界のエースとしての矜持を存分に示した表彰台だった。(小川寛太)