平成23年の東京電力福島第1原発事故により、放射性物質に汚染された宮城県内の東北大学牧場地を、大学が除染しないまま大規模風力発電事業に貸し付けていたことが15日、分かった。国立大学の遊休地を業務外に貸し付けることは近年の法改正で認められたが、文部科学省によると放射性物質に汚染された土地を貸し付けた例はほかになく、極めて異例。風力発電事業によって放射性物質が周辺地へ流出、飛散する懸念も指摘されている。
異例の大学土地貸し付け
計画は「(仮称)六角牧場風力発電事業」。宮城県大崎、栗原両市にまたがる東北大川渡(かわたび)フィールドセンター内の六角牧場に、高さ最大200メートルの風車を最多20基設置。最大出力は7万キロワットで、発電全量を東北電力へ売電する計画。令和5年春にも着工、7年度末の運転開始を目指している。
事業者は、風力発電会社「市民風力」(札幌市)と関連会社のCSS(同)で作る「川渡風力発電」(同、鈴木亨社長)。現在、環境影響評価(アセスメント)の手続きが3段階のうち第2段階の「方法書」まで進んでいる。
平成29年から、国立大学法人法改正により、大学の遊休地を本来の業務と関係のない第三者へ貸し付けることが可能になった。東北大は30年11月、牧場地376万平方メートルの貸し付けを文科省へ申請、翌31年3月に認可された。
東北大によると、大学は令和2年3月、公募により川渡風力発電側と土地の貸し付けを契約。貸し付け料は年間8千万円、期間は発電開始後20年で、計16億円の収入を見込んでいる。
ホットスポット除染せず
ところが、牧場は平成23年の原発事故により、放射線量が局所的に高い「ホットスポット」となった場所だった。原発事故直後、放射性物質が大気とともに雲のように流れる「放射性プルーム(雲)」となり、風に乗って宮城県北部の上空を通過。大崎、栗原両市の一部に降り注いだためだ。
東北大によると、六角牧場でも放射性セシウムが検出され、牛の放牧を中止。除染を検討したが、面積があまりに広大であることなどから行われず、そのまま放置された。
環境アセスメント手続きの一つで、昨年4月に開かれた宮城県環境影響評価技術審査会では、放射性物質の専門家が「一帯に1平方メートルあたり1万~3万ベクレル降った」と指摘。風力発電施設の工事などによって「下手に土をいじると、それが泥水になって大学の土地ではないところに流れていく可能性もある」と周辺地への流出を懸念した。
文科省によると、法改正後、全国の国立大学へ計26件の遊休資産貸し付けを認可したが、放射性物質による汚染を理由とする申請は東北大のみ。再生可能エネルギー事業への貸し付けも他には京都大の太陽光発電のみで、極めて異例。
東北大は「今回、土地の貸し付けに当たって放射線量を測定し、牛の放牧には適さないが、開発業者が作業する際の被曝(ひばく)については問題ないレベルだった」としている。