謎のアコヤガイ大量死を招いたのは新種ウイルス

異常貝にみられる貝殻内部の特徴。萎縮や褐変が起きている(愛媛県水産研究センター提供)
異常貝にみられる貝殻内部の特徴。萎縮や褐変が起きている(愛媛県水産研究センター提供)

愛媛県の宇和海など国内の主な真珠生産現場で、真珠養殖に用いるアコヤガイが大量死している問題で、国立研究開発法人水産研究・教育機構と、愛媛県農林水産研究所水産研究センターは、大量死の原因が新種のウイルスであることを突き止め、このウイルスをPCRによって検出する方法を確立した。3月5、6の両日にオンラインで開催される日本魚病学会春季大会で詳細を発表する。

ビルナウイルス科の新種

アコヤガイの大量死が起きたのは令和元年夏からで、以降3年連続で発生している。特に稚貝の被害が深刻で、真珠生産量全国1位の愛媛県では稚貝の残存率は元年が3割、2年が5割、3年は3割となっている。このほか、主要産地の長崎県、三重県でも被害が出ており、原因究明を急いでいた。

同機構は2年に感染症の可能性を示唆するとともに養殖方法などの複合的な要因で死んでいることも考えられるとする報告を出していた。3年には未知のウイルスによって大量死が引き起こされていることを突き止め、その後の研究で、感染した貝と健康な貝双方の遺伝子を解析して比較する方法で、感染した貝にだけ現れる遺伝子を特定することに成功。さらにその遺伝子配列を調べたところ、ビルナウイルス科に属する新種のウイルスと分かった。

ビルナウイルス科はこれまでも魚類をはじめ、鳥類、昆虫類、軟体動物からも発見されており、研究が行われているが、アコヤガイで病気を引き起こすことはまったく知られていなかった。感染した稚貝は軟体部(身)に萎縮が見られるのが特徴で、人工的に稚貝に感染させる試験を行った結果、数日後に萎縮症状が出てほとんどが死んだという。

ウイルスの大きさは約0・06ミクロンで髪の毛の太さの1千分の1程度。線状の2本鎖RNA2分子をゲノムとして、構造は正三角形20枚からなる正二十面体。被膜(エンベロープ)を持たないRNAウイルスに分類される。

宇和海の入り江にある真珠養殖場
宇和海の入り江にある真珠養殖場

PCRでウイルス検査

研究では、特定したウイルスのゲノム情報の解読も行い、PCR検査方法を開発した。養殖現場で大量死が起きている海域のアコヤガイからこのウイルスが検出されるのに対し、未発生海域のアコヤガイからは検出されないことを確かめている。また、成長したアコヤガイは感染すると死ぬ確率は比較的低いものの真珠層に褐色物が沈着するのが特徴で、試験で感染させた場合も数週間で褐色化した。

愛媛県農林水産研究所水産研究センターは、感染試験やサンプル提供で国の研究に協力。桧垣俊司センター長は「3年連続で稚貝が死んでおり、被害は深刻だ。ウイルスは分かったが、これで大量死問題が即座に解決するということではない」と受け止めている。

養殖では貝を籠に入れて海中につるす。桧垣センター長は「貝はいわゆる『密』の状態になっている。死ぬとすぐに身が溶けてしまうため、ウイルス感染があれば広がるのは速い。症状が出るのは6月ごろからだ」と話し、ウイルスは大量死を引き起こすためのトリガーで、ほかに海水温の上昇や環境条件、貝の健康状態といった複合的な要因が考えられると指摘する。

アコヤガイ大量死の原因について説明する愛媛県水産研究センターの桧垣俊司センター長
アコヤガイ大量死の原因について説明する愛媛県水産研究センターの桧垣俊司センター長

ウイルスのいない海域へ移動も

今回の研究成果により、PCR検査によって海水や貝を調べることができるようになる。病気が発生した海域の貝をほかの海域に移動させない▽ウイルスの多い海域に非感染の貝を持ち込まない-といった当面の対策もとれると期待される。愛媛県と生産者団体などでつくる「アコヤガイへい死対策協議会」は、稚貝の大量死が起きる夏場に一時的に避難させるための漁場新設を目指し、準備を進めている。

桧垣センター長は「宇和海、瀬戸内海での飼育試験を継続する。これまでの調査、研究から得られた知見を活用できるよう関係機関と連携し、できるだけ多くの貝を残せる対策を指導していきたい」と話している。(村上栄一)

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