欧州で進む「脱原発」の理想と現実

ドイツをはじめとする欧州の一部の国では、再生可能エネルギーの導入と「脱原発」の動きが加速している。一方で、二酸化炭素の排出量削減という目標において、その道筋が必ずしもひとつでも“まっすぐ”でもない現実も浮き彫りになっている。

新年を祝う打ち上げ花火の最終準備がドイツのベルリン中心部で進んでいた2021年の大みそか、首都から離れた場所ではもうひとつの時代が終わろうとしていた。それは、ドイツが何十年もの間いたずらに長引かせてきた原子力発電との付き合いの「終わりの始まり」だった。

この日、ドイツは国内に残る6基の原子力発電所のうち3基の運転を停止した。ほかの3基も22年末までの閉鎖が予定されている。原発排除の合意が法制化されてから20年の間、この国は急速に脱原発を進めてきた。法案が成立した02年当時、ドイツは電力の30%近くを原子力発電に頼っていたが、22年中にこの数字はゼロになるはずだ。

欧州諸国のなかで、原子力エネルギーとの関係を見直しているのはドイツだけではない。隣国ベルギーは、いまのところ電力のおよそ40%を原子力発電から得ているが、現存する7基の原子炉を25年までに閉鎖すると明言している。南隣に位置するスイスは、最終的な全廃に向けた第1段階として、5基あった原子力発電所のうち1基をすでに閉鎖している。

スイスの段階的廃止策は、17年の国民投票で決定された。再生可能エネルギーの利用を奨励し、原発施設の新規建設を禁止するエネルギー政策を、国民の過半数が支持したのだ。

この結果を後押ししたのは、津波の急襲により原子炉3基がメルトダウンした11年の福島原発事故をきっかけとする環境意識の高まりだった。福島での惨事に加え、核廃棄物処理の問題もドイツの脱原発を加速させることとなった。それからまもなく、当時のドイツ首相でかつて原子力発電所の早期廃止には賛成できないと発言したことのあるアンゲラ・メルケルは、既存の発電所の運転を延長しないとの国家方針を発表した。

欧州が抱える「原発のジレンマ」

欧州における脱原発の動きに対し、CO2排出の削減が求められる時代において、信頼性の高い低炭素エネルギー源を失うことは絶対に避けるべきだと批判する人々もいる。こうした人々が訴えるのは、原子力発電の突出した安全性とCO2排出量の低さだ。

フランスは電力の70%近くを原子力発電から得ており、結果として欧州屈指の低炭素発電を実現している。一方、原子力に懐疑的な人々に言わせると、低炭素エネルギー源としての原子力の信頼性は、高コスト、新規発電所の建造に要する時間の長さ、安全性と放射性廃棄物に対する拭い切れない社会不安の大きさを割り引いて考えるべきだという。

欧州各国は電力供給の完全なる脱炭素化を急務としており、そのことが欧州全体の脱原発に大きな圧力となっている。EUは温室効果ガスの排出を50年までに実質ゼロにするとの目標を掲げているが、その実現は30年までに削減目標の大部分を達成できるか否かにかかっている。

ドイツの脱原発計画を批判する人々が指摘するのは、原子力エネルギーを放棄する一方で、国内の石炭火力発電施設からは相変わらず大量の二酸化炭素や極めて有害な微粒物質が空気中に放出されているという矛盾した事実だ。いずれにしても、原発のジレンマを抱える欧州から学ぶものがあるとすれば、それは「クリーンな電力」へと続く道には、政治的、経済的、イデオロギー的な障害物がいくつも転がっているということだろう。

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