画家の祖父から受け継いだ芸術性と表現力で観衆を魅了した。目標とする頂点には届かなかったが、銅メダルを獲得したフィギュアスケート男子の宇野昌磨(しょうま)(24)。2大会連続の表彰台に「この4年間いろんなことがあった中で、ちゃんと五輪に出場でき、3位という成績を出せたことがうれしい」と充実感を漂わせた。
人懐こい笑顔を浮かべながら、スピンやステップ、ジャンプの練習に励む小柄な少年-。地元・名古屋のリンクでスケートを始めた頃から、宇野の成長を見つめてきた人がいる。
「あのやんちゃだった昌磨が…。メダルの色に関係なく、わが孫ながら誇りに思う」。感慨深げに話すのは祖父の宇野藤雄(ふじお)さん(94)=愛知県犬山市。国内外の展覧会で数々の受賞歴を誇る有名画家だ。
リンクに立ち、いざ演技に臨む宇野の姿は「自分の孫とは思えないほどりりしい。勝負の世界に生きる大人の顔だ」と藤雄さん。その活躍に触れるたびに、藤雄さん自身も「不思議と創作意欲が湧いてくる」と話す。90歳を過ぎてなお現役。フィギュア界のスターとなった孫の存在が、キャンバスに向かう原動力になっている。
数あるスポーツの中でも、特に芸術性が問われるフィギュアスケート。藤雄さんは「私の芸術家としての才能が昌磨の糧になっていると思うと、これほどうれしいことはない」と目を細める。
「いつか昌磨のスケート靴や衣装、メダルと一緒に私の作品を並べた美術館を作りたい」。そんな夢を抱く藤雄さんはこの日、宇野の雄姿をテレビの前で見守った。競技を終え、さらなる飛躍を誓った孫に「昌磨には世界一の選手になる素質がある」と熱っぽく語った。(土屋宏剛)