フィギュア男子で鍵山「銀」 羽生の言葉支え 一気に飛躍

男子フリー 演技する鍵山優真=10日、首都体育館(桐原正道撮影)
男子フリー 演技する鍵山優真=10日、首都体育館(桐原正道撮影)

10日に行われた北京冬季五輪のフィギュアスケート男子フリーで、初出場で18歳の鍵山優真(オリエンタルバイオ・星槎)が銀メダルを獲得し、同種目の日本勢最年少メダリストとなった。

チェンを残して首位に立った鍵山は、息を整えながら、暫定2位の宇野と、同3位の羽生が待つスペースに向かった。両雄に挟まれてソファに腰を下ろすと、羽生にねぎらわれた。「よく頑張ったね」。五輪2連覇を果たし、8年間も世界のトップを走ってきた王者から、バトンを受け取った瞬間だった。

世界に飛び出す勇気をくれたのも羽生だった。2020年12月、全日本選手権で3位に入り、翌21年3月の世界選手権代表入りを決めたときのことだ。

代表会見で「日本代表として足を引っ張らないように」と控えめな目標を口にした後、羽生に呼び止められた。「優真の良さは、負けん気の強さと、勢いだと思うから、どんどん言っちゃえ。何かあったら俺が守るから」と、背中を押してもらった。この言葉で「自信がついた」という。

初めて挑んだ世界選手権で攻めの姿勢を貫いた。積極的に4回転ジャンプを組み込み、滑りきった。3位だった羽生を上回る2位に食い込んだ。世界から注目される存在となった。

それから1年。北京の舞台でも成長した姿をしっかりと示し、日本勢でトップの成績を残した。氷上でのセレモニーでは初々しい表情を浮かべ、「五輪を夢として頑張ってきた数年間の全てが詰まった銀メダル」と喜びをかみしめた。

挑戦は5歳から始まった。五輪に2度出場した父・正和コーチの影響で本格的に競技を始めたのがそのころだ。小中学生では目立った成績は残していない。飛躍のきっかけは中学3年の2018年6月に正和氏が脳出血で倒れたことで訪れた、父との〝空白の時間〟だった。

あまり取り組んでこなかった表現力を磨いた。父に頼っていたプログラムの選曲は振付師の佐藤操氏と相談し、自ら行った。笑顔で滑ること、英語の歌詞にカナを振って口ずさんで滑ることにも挑んだ。振り付けの幅が広がり、深みのある滑りの土台ができた。「嫌でも自分一人でなんとかしないといけなかった」。自立につながった。

約半年で父はリンクに戻り、二人三脚の日々が帰ってきた。父が倒れたとき、佐藤氏と誓ったことは「お父さんが喜ぶ演技をしよう。驚かせよう」だった。念願の五輪の舞台、父の目の前で実現させた。(久保まりな)

競技一覧

会員限定記事会員サービス詳細