35人「起訴相当」迫る時効 広島参院選買収、検審議決

2019年の参院選広島選挙区買収事件を巡り、検察審査会の議決書を張り出す関係者=1月28日午後、東京地裁

令和元年7月の参院選広島選挙区をめぐる買収事件で、現金を受け取った100人全員を不起訴とした東京地検特捜部の処分に東京第6検察審査会がノーを突き付け、地方議員ら35人を「起訴相当」と議決した。時効の成立が早い受領者で3月下旬に迫るため、特捜部は急ピッチで再捜査を進めている。議決の要求に応えつつ、検察として起訴の基準をどのように示すのか-。特捜部は限られた時間のなか、難しいかじ取りを迫られている。

検審は1月28日に議決書を公表し、元衆院議員の河井克行元法相(58)=公職選挙法違反罪で実刑確定=側から現金を受け取った100人のうち、35人を「起訴相当」、46人を「不起訴不当」、19人を「不起訴相当」とした。特捜部は、起訴相当と不起訴不当の計81人について聴取などを進めている。起訴相当の35人は今後、強制起訴される可能性がある。

特捜部は昨年7月、①現職の国会議員だった元法相と地方議員などの受領者とでは立場の差がある②買収側の悪質性が際立っている③受領額は5万~300万円と幅があり、返金状況も異なる中、処分を分ける基準が見いだせない―などの理由を説明し、100人全員を不起訴とした。

これに対し、検審は、①と②を認めながらも、受領者側を処分しないことは「現金受領が重大な違法行為であることを見失わせる恐れがある」と指摘。③の線引きは、受領金額の多寡▽受領時に公職に就いていたか▽公職の場合は受領後に辞職したか▽返金や寄付の有無とその時期―という基準で判断できるとした。

具体的には受領額10万円以上を「高額」と定義し、地方議員や首長が現金を受領した場合は一般の有権者と比べ、「悪質で責任は重大」と指摘。辞職せずに議員を続けているのは「犯罪行為の重大性を認識しているのか甚だ疑問」とした。

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そもそも公選法違反事件で買収側だけを起訴することは異例で、昨年の不起訴処分には検察内部でも異論が根強かった。検審が示した基準に対し、検察側の受け止めはさまざまだ。

「検審の判断は合理的。国会議員と地方議員で立場の違いを見いだすのは永田町の論理だ。国民目線ではない」と議決を評価する幹部もいる一方、別の幹部は「受領者は一人一人で事情が異なる。『不公平感』は残るだろう」と話した。

今回の大規模買収事件の捜査では、この「公平性」をどう保つかが課題となった。元法相が作成した「買収リスト」に名前が記載されながら、聴取を拒否するなどして受領者として認定されなかった地方議員も存在したためだ。

検察は、捜査への協力を拒んだ地方議員らを立件せず、受領を認めた議員らだけを起訴すること自体が、バランスを欠くと判断したとみられる。

受領者の不起訴について一部で「事実上の司法取引」との批判もあったが、ある幹部は「処罰しないことで今後も同種事件で受領者が捜査に協力する可能性が生じ、買収を抑止できる」と政策的判断もあったと明かす。

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検察と検審は、議員など「公職」の立場をどう評価するかでも違いが鮮明となった。現職議員が被買収罪で起訴され、罰金刑以上の刑が確定すると、原則5年の公民権停止となる。

起訴相当と議決された35人のうち30人は受領当時、首長や議員。検察幹部は議決について「現職議員を中心に起訴相当の対象とする非常に大胆な絞り方。刑事罰に問うてまでも、一度は失職すべきだという明確なメッセージだ」と指摘した。

一方、検察内部では「何の罪でも政治家を起訴していくと、『狙い撃ち』との批判を浴びかねない」(幹部)という懸念もあり、政治家の起訴にはより慎重な判断が求められてきた。公選法の被買収罪の規定は本来、公職に就いているかなど、身分によって適用が変わるとは定めておらず、ある幹部は「検審の論理に乗るとはまだ決めていない」と強調した。(荒船清太、吉原実、石原颯)


議決後に3人辞職

「起訴相当」と議決された広島県議らの多くは不起訴を理由に事件後も職にとどまっていたが、検察審査会の議決を重く受け止め、辞職する議員が相次いでいる。

河井克行元法相側から30万円を受領した高山博州(ひろくに)県議は7日、「混乱を招き、迷惑をかけた」と陳謝し、政界引退を表明。議決後の現職議員の辞職は呉市議、広島市議に続き3人目となった。

一方、同じ県議の中でも対応はさまざまで、「自ら辞職する必要はないし、考えてもいない。検察の再捜査結果を待つ」と語るのはあるベテラン県議。検察から略式起訴を打診されても断る意向だとし、「捜査には協力してきた立場で、再び不起訴となる可能性もある」との見方を示した。

ある広島市議は、「検審の議決内容に従うのであれば、検察の主体性はどこにあるのか。(略式起訴されて罰金刑が確定し)公民権停止になるのであれば、公判で争いたい」とした。

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