朝晴れエッセー

そのときはもう現金で・2月8日

「60歳以上の女性限定・スマートフォン決済講座」というものを受講してみた。

財布を持ち歩くことに不自由を感じてはいない。ただ、若者がコンビニのレジで水戸黄門の印籠のようにスマホをかざす、それには興味があった。アレはどこからお金が入ってどこから出ていくのか。

参加者は8人。講師の40代とおぼしき男性は会場の隅々に目を配り1人も置き去りにはしない。皆も真剣そのもの。手をあげ、ときには立ち上がり、大きな声で先生を質問攻めにする。

今聞いておかないと家に帰ったらもう聞く人がいないのだから。会場は熱気に包まれ、換気のために開けられた窓からスースー入る冷たい風も気にならない。

17枚にわたるデカ文字の資料と先生の熱意のおかげで、全員が無事に決済の設定を済ませた。あとはスマホにお金を入れて完了、と思うのはまだ早かった。

チャージ方法にもいろいろあって前途多難。かつて全自動洗濯機を相手に苦戦していた母の気持ちが今わかる。終了後、先生は私たちに優しく声をかけてくださった。

「とりあえず1回やってみて『無理だな』と思ったら、そのときはもう現金で…」。気休めではない温かいものを感じた。わかりました。「無理せんでもええで」ということですね、先生。

軽い足どりでさっそうと帰宅した。夕食を食べながら聞きかじりの用語を並べる。

「お父さんだったらどっちにする? 銀行口座決済とコンビニチャージ…」

間髪入れずに夫は言った。

「一生、現金で払う」


蕨野百合子(66) 和歌山県海南市

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