7日に行われた北京冬季五輪スピードスケート女子1500メートルで高木美帆(日体大職)が1分53秒72で銀メダルを獲得した。
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0・44秒届かなかった。電光掲示板で記録を確認すると、高木美は天を仰いだ。世界記録保持者として臨んだ女子1500メートルだったが、結果は2018年平昌五輪同様の銀メダル。4年前はうれしさもあったが「今回は金メダルを逃したことの悔しさが強い」と、唇をかみしめた。
高木美も人間だ。メダル3個を獲得した平昌五輪後は虚脱感に悩まされた。「北京を目指すなら、平昌までの4年間を超える覚悟、時間が必要」。分かってはいても、なかなかスケートへの気持ちが沸き立たず、葛藤の日々を過ごした。
そんな時期に新型コロナウイルス禍が世界を覆った。日常生活は制限され、練習環境も変わった。日本スケート連盟は昨季、国際大会の出場を取りやめた。
ただ、これが自身を見つめ直すきっかけになった。時差や長距離移動への対応に追われることがなくなった分、心身に余裕ができた。「五輪でどういうレースがしたいのか」「どういう自分でありたいのか」-。「1500メートルと1000メートルで1番を取りたい」。自問自答を繰り返すうちに、徐々に北京への意欲が高まっていった。
昨夏の東京五輪もまた、さまざまな問題を考える契機となったという。「自分も勇気、元気をもらえた。(スポーツに)そういう力はやっぱりあると感じられた。応援してくださる方もたくさんいると感じられたのも大きかった」。そして、「次は自分たちだなと思うことができた」。覚悟が定まった。
迷いがなくなれば、おのずと集中力は高まる。今季のワールドカップ(W杯)では1500メートルに3度出場して全勝し、優勝候補の筆頭として五輪に臨んだ。金メダルは逃したが、2大会連続で表彰台にはたどり着いた。
「スーパー中学生」として早々に世界を見た10年バンクーバー大会、出場を逃し気持ちの重要性を学んだ14年ソチ大会、人生を懸けて挑んだ平昌大会。「自分が目指すゴールがそこにある」と五輪を語る27歳は、出場してもしなくても、五輪とともに成長してきた。
日本選手団主将を務める今大会は短距離から長距離まで全5種目に出場予定で、1000メートルや2連覇が懸かる団体追い抜きは金メダルを射程圏内にとらえている。この先にはどんな風景が待っているのか。熱い冬はまだまだ続く。(橋本謙太郎)