持続可能な社会に向け、地域の力を掘り起こし、生活を支える試みが始まっている。フードロスも削減しながら「食」を支える、高齢者の力を再活用し地域活性化を目指すなど、さまざまな取り組みが加速。「食」「人」という資源を再活用し、パートナーシップで循環型社会の構築を目指す。
食品ロス削減
「今日の日替わりはサバの塩焼きですよ」
大阪・淀川のそばに4棟立ち並ぶ大規模マンションに併設された商業施設の一角。「ばんざい東あわじ」(大阪市東淀川区)は、手作り惣菜を買い求める高齢者らでにぎわっていた。約10種類のおかずが並び、1グラム1円という安さ。男性客は「フライものなんか家ではできないし、野菜のおかずも豊富だからつい買いすぎてしまう」と話した。
「循環型地域食堂」-。同店を運営する「スネイルトラック」(同)は、店をそう表現する。惣菜やご飯類は、地域住民などから寄付を受けた食材などを調理。足りない食材は購入しているものの、格安で販売できる理由の1つだ。
寄せられる食材は、賞味期限切れ間近のもの、家庭で使い切れなかった野菜などさまざま。再活用することでフードロスも防ぐ。
近くのタクシー会社の従業員からは、不要になった炊飯器の寄付もあった。関わる人の輪が広がり、地域の人たちが支え合う。
オープンのきっかけは商業施設内にあったスーパーの撤退。築50年近いマンションは高齢者の単身世帯が増加し、買い物の苦労を訴える声が目立ち始めた。苦境を知り、商業施設内に本社を置く同社が運営に乗り出した。本川誠代表(45)は「買い物難民、フードロス、生活困窮者と3つの課題解決を図った」と狙いを話す。
店の前の冷蔵庫に余った食材や売れ残りの惣菜で作った弁当などを入れておき、無料で持ち帰ってもらう「親切な冷蔵庫」とする仕組みも導入。海外で行われていた事例を参考にした。食材の再活用の徹底と生活困窮者支援を目指す。
今後は近隣の飲食店からも残った食材を提供してもらうなど、規模を広げる計画だ。本川氏は「ほかの地域でも取り組んでもらえるよう、運営ノウハウを伝えたい」と話す。
地域の高齢者が活躍
「人材」の面から、地域で支え合う仕組みを目指す動きも広がる。キーワードは高齢者の再活用だ。
「これからの時代はスマホがないと。操作が学べて人の役にも立てたらうれしいと思って」。1月、兵庫県宝塚市で開かれた、スマホ教室の指導補助員を養成する講座に参加した大阪府茨木市の山本啓子さん(69)は話した。
同市のNPO法人「健康・生きがい就労ラボ」が開講。同団体は主に高齢者を対象としたスマホ教室などを開いている一方、教室で講師を補助し高齢者を指導する「チューター」と呼ぶ人員も養成している。
チューターの年齢はおおむね50代以上に限定。チューターに認定されると報酬も支払われる。受講者と比較的年齢が近いことで教室運営がスムーズに進むほか、高齢者の就労を後押しする狙いもある。
「働くことで健康を維持できる」。理事長の遠座(おんざ)俊明さん(63)は話す。大阪ガスのエネルギー・文化研究所で、高齢社会の生活の質向上に向けたあり方などを研究。リタイア後に家に閉じこもりがちになる人もいるなか、高齢者が活躍できる地域モデルを作ろうと考えたことがNPO設立のきっかけだ。
スマホ教室のほか、自治体などと協力して福祉の現場などで短時間労働に就いてもらう「プチ就労」の取り組みも始めた。宝塚市では3カ月のトライアル期間を設け、介護、保育でのプチ就労に参加してもらっている。期間終了後も約8割が就業を継続。人手不足の現場で期待が高まっているという。
遠座さんは「無理のない範囲で社会貢献しながら、プチ就労できる仕組みを作っていけたら」と話す。
地域住民を中心とした会員間での「有償ボランティア」で、高齢者が活動の中心となっている例もある。
大阪市鶴見区の有償ボランティア制度「あいまち」は、困りごとを会員間で解決し、支え合うシステムだ。「部屋の掃除を手伝って」「話し相手がほしい」など会員から出された困りごとに対し、別の会員が対応する。依頼者は1時間800円を支払い、対応する人は1時間600円の謝礼を受け取る。
スタートした平成26年度の会員は119人だったが現在は442人にまで増加。60~70代が中心だ。担当者は「利用できて助かった、生きがいができたという声が届く」と話す。
少子高齢化、人口減少が続くなか、公共サービスに加え、住民の力を生かす「共助」の重要性も増している。地域での共助について、大谷大の志藤修史(しどうしゅうし)教授(社会福祉学)は「地域で活用できそうな人やものを再発見してみること」と話す。そのうえで、地域外からも人を受け入れるなど「無理をしない活動が継続のコツ」としている。