世界屈指の安定したジャンプを、4年に1度の大舞台でも発揮した。北京冬季五輪ノルディックスキー・ジャンプ男子個人ノーマルヒルで6日、小林陵侑(りょうゆう、25)が今大会日本勢初の金メダルに輝いた。
ジャンプで不利とされる追い風の中、1本目を首位で折り返した小林。運命の2本目。低い姿勢の助走から一気に空中に飛び出すと、風をとらえて100メートルに迫るジャンプ。着地直後に金メダルを確信したように雄たけびを上げた。「2本ともいいジャンプをそろえられてすごくうれしい」。試合後のインタビューで、自身でもそう振り返った。
「根性論を押し付けてはいけないことを気付かせてくれた存在」
盛岡中央高校スキー部時代の小林を監督として指導した伊東雄一さん(50)が思い出すのは、マイペースながらも真摯(しんし)に練習に取り組む姿だ。
「ダンベルの重さを下げたい」。全員に課していた筋力トレーニングで、小林はこう訴えてきた。楽をしたいわけではない。ジャンプで重要な瞬発力を培うトレーニングが、今の自分には必要と考えたからだ。
確かに、低重量にして上げ下げの回数をこなすほうが、目的に直結する。10年以上の指導歴でそんな選手は過去にいなかったが、伊東さんは快諾した。
授業中におにぎりを食べているのが見つかって叱られるなど、競技外でもマイペースだった小林。伊東さんは、「監督の言うことを何でも素直にやるタイプではないが、ある意味でそれでいいと思えた選手」と評価する。
小林の地元、岩手県八幡平(はちまんたい)市の職員で、中学時代に県選抜で同じチームだった八幡(やはた)優作さん(26)も、「少なくとも学生時代は、試合に負けて泣くようなタイプではなかった。闘志を内に秘めるタイプ」と振り返る。
当時出場したノルディック複合・クロスカントリーの全国中学大会で、障害物にスキー板をとられて優勝を逃したときも、周囲には悔しがる姿を見せなかったことが印象に残っている。
小林の金メダル獲得の瞬間はテレビで観戦したという八幡さん。「いつもは飄々(ひょうひょう)としている陵侑が、何度もガッツポーズをする姿に胸が熱くなった」と語り、「不利な追い風をものともしない、陵侑らしいジャンプをみせてくれた」と祝福した。(桑波田仰太)