【モスクワ=小野田雄一】ロシアは2008年8月の北京五輪開会式の日にジョージア(グルジア)に侵攻した。14年3月のソチ冬季パラリンピック閉幕直後にはウクライナ南部クリミア半島を併合した。4日開幕の北京冬季五輪をめぐっても、ロシアが再びウクライナに侵攻するのではないかとの懸念が強まっている。ウクライナの状況が08年当時のジョージアと類似していることも国際社会の不安をかき立てている。
ジョージアとウクライナに共通するのは、ともに中央政府の支配が及ばない親露分離派地域を国内に抱えていることだ。
親欧米国のジョージアでは08年8月、親露分離派地域の南オセチア自治州をめぐって政府軍と自治州の戦闘が勃発。自治州住民に露国籍を付与していたロシアは「自国民の保護」を名目にジョージアに侵攻した。
ウクライナでは14年のクリミア併合後、東部のドネツク、ルガンスク両州でロシアの支援を受けた親露派武装勢力が中枢施設を占拠し、政府軍との大規模戦闘に発展。15年2月に和平合意(ミンスク2)が結ばれたが具体的履行で行き詰まった。これまでに約1万4千人が死亡し、膠着(こうちゃく)状態が続く。ロシアは両州の親露派支配地域でも約60万人に国籍を付与した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は19年の大統領選で「東部紛争を終結させる」と公約し、国民の厭戦(えんせん)気分を背景に圧勝した。だが、「ミンスク2」の2本柱である「東部での選挙実施や自治権付与」と「ウクライナによる東部国境管理の回復」のどちらを優先するかで折り合えていない。
ウクライナでの連邦制導入を狙うロシアが前者を優先させたいのに対し、ゼレンスキー政権は東部国境の管理を回復してロシアの軍事支援や工作活動を止めるのが先決だと訴えている。
経済不振も相まってゼレンスキー氏の支持率は低下。「大統領選が来週行われたら誰に投票するか」を尋ねた先月の世論調査では、ゼレンスキー氏との回答が約17%にとどまった。
「ウクライナは(沈没した英旅客船)タイタニック号ではない」「侵攻の恐れは否定しないが、緊張が高まっているとは思わない」。ゼレンスキー氏は1月末の記者会見でこう述べ、侵攻が差し迫っているとみる米国などとは異なる情勢認識を示した。危機感が強まれば外資が流出し、経済がいっそう低迷しかねない。正念場のゼレンスキー氏にはいらだちも垣間見える。