男子のモーグル界には、絶対王者がいる。世界のトップ選手が集まるワールドカップ(W杯)で個人総合9連覇を達成し、前回の平昌五輪を制したカナダのミカエル・キングズベリー。日本のエース堀島行真(トヨタ自動車)にとって、越えなければ金メダルは手にできない好敵手だ。今季のW杯は、非五輪種目のデュアルモーグルを除く7戦で、キングズベリーが4勝、堀島が3勝。24歳は2日、大一番での頂上決戦へ、試合会場で入念に調整した。
気温マイナス20度に迫る極寒の会場で、堀島はコブの形状やエアの感触を確かめるように滑った。「滑る人が増えると、だんだんコース状況も難しくなってくると感じた。コーク1080までしっかり合わせるところまでやっていきたい」。絶対王者と交える本番へ、気を引き締めた。
堀島が世界に飛び出したころ、キングズベリーはすでにW杯個人総合王者に君臨。数々の偉業に「すごく刺激を与えてくれるし、誰も成し遂げられないことを成し遂げる選手」と尊敬のまなざしを向けてきた。前年の世界選手権2冠の実績を引っ提げて臨んだ前回平昌五輪では、転倒が響いて11位に終わった堀島に対し、王者は表彰台の頂点に立っていた。
どう差を詰めるか。目を付けたのは採点の6割を占めるターンの技術だ。速度を上げてもぶれない滑りを追求し、板の長さを変えながら試行錯誤した。滑りながら必要な筋肉を鍛えていくとの考え方を貫き、夏場も標高2800メートル近くまで登り、雪をかき集めて滑り込む時間を確保。ターンの安定性や上達につなげた。
ターンの採点には、各選手の実績や技術力でベース点が設定されるが、昨季から堀島の方が高い点をつける試合が出てきた。多少のミスが出ても高得点を出せるようになり、気持ちに余裕が出てきた。「僕に足りないのは滑りのきれいさ。それができれば、勝つことができるのではないか」。王者に勝つ筋書きは見えている。(小川寛太)