中国・新疆(しんきょう)ウイグル、内モンゴルの各自治区などの人権問題に関する決議が1日の衆院本会議で採択に至った。中国政府の民族迫害を問題視し、日本政府に具体的な対応を促してきた東北地方の自民党議員に手放しで喜ぶ雰囲気はない。決議案は「中国」を明記せず、「非難」「人権侵害」の文言も削除され、中国政府に配慮したと受け取られかねないからだ。それでも地方議員は希望を込め、中国の人権状況を改善する「包括的な施策」の実施を訴えている。
「採択自体は前進だと感じる。ただ、中国共産党の『ジェノサイド』(民族大量虐殺)を非難する内容ではなく、中国を気遣ったような印象だ。国際社会に誤ったメッセージとなりかねない」
昨年12月21日に秋田県議会でウイグル人弾圧への対応を日本政府に求める意見書の採択を主導した宇佐見康人県議は産経新聞の取材に、こう懸念を漏らした。
東北地方では昨年3月以降、少なくとも2県2市3町1村の議会で、中国での人権侵害の改善に向け、日本政府の働きかけを要望する意見書が採択された。
仙台市議会は昨年10月12日に意見書を採択した。自民の若手市議は「ウイグルや内モンゴルの各自治区での人権侵害に目をつぶることはできない。だが、経済界への配慮がにじむ決議で、正直物足りない。国際社会に日本の国会の覚悟を示す決議であってほしかった」と落胆を隠さない。
青森県八戸市議会は昨年9月27日、意見書を採択し、中国で人権の尊重や法の支配が保障されるよう日本政府に働きかけを求めた。自民の立花敬之市議も決議に中国の国名や「人権侵害」の文言が抜け落ちたことに肩を落としつつ、「決議によりウイグルなどの人権侵害問題の解決に向けた政府の対応が進むことを期待したい」と語った。
宮城県議会は昨年12月15日、ウイグル人が直面する収容政策などで日本政府独自の情報収集を求める意見書を採択した。自民の渡辺勝幸県議は国会決議について「中国の国名を記載していない理由が理解できない。決議の体をなしていないのではないか」と述べつつ、「決議の『事実関係に関する情報収集を行うべき』とした文言に沿い、外務省などは在日ウイグル人ら自治区の出身者から迫害の実態を聞くべきだ。注視したい」と強調した。
日本が1919年のパリ講和会議で「人種差別撤廃」を国際社会に先駆けて提唱して1世紀。欧米諸国が中国の人権侵害状況を「ジェノサイド」と認定し、厳しい態度で臨む中、日本の国会は対応が遅れ、先進7カ国(G7)で事実上最後の対中決議となった。昨年は与党執行部の足踏みにより、2国会にわたり決議が見送られる失態もさらした。
骨抜きになった国会決議に対する苦渋の思いは自治区出身者も同じだ。内モンゴル自治区(南モンゴル)出身で山形県の日本人男性と結婚したヒヤン・オランチメグ氏は産経新聞の取材に「中国の国名もないし、当初案から非難の表現ぶりも後退した。もう少し強めに表現してもいいかな。ただ、決議しないより、した方が絶対にいい」と自身に言い聞かせるように振り返り、決議採択の必要性をこう訴えた。
「南モンゴルを助けてもらうだけではなく、日本にとっても重要なことだ。中国の影響力は日本に浸透している。中国の言いなりにならないように危機感をもってもらいたい」(奥原慎平)