新型コロナウイルスのオミクロン株の感染急拡大で、検査体制の逼迫(ひっぱく)が深刻化している。医療機関の発熱外来では患者の増加に、短時間で感染の有無を確認できる「抗原検査キット」の在庫が追い付かず、優先順位をつけて断るケースが出ている。マンパワー不足も重なり、診断の遅れが治療の遅れにつながる懸念が拭えず、現場の医師らはジレンマを抱えている。
川崎市中原区の「武蔵小杉くれ耳鼻咽喉科」では1月28日に20回分の抗原検査キットが入荷し、在庫が70回分になった。ただ、発熱外来には1日10~15人の患者が訪れるため、このままのペースでは今週中に使い切ってしまう恐れがある。
医薬品卸売業者からは、これまで使っていたメーカーのキットを用意できないといわれ、別メーカーのものも頼んでいるが、少量ずつしか確保できない。軽いのどの痛み程度では、検査を断ることもあるという。
濃厚接触者の同居家族に症状があれば、検査なしで感染の有無を診断できる厚生労働省の指針に基づき、28日には子供2人を症状のみで陽性と診断した。
呉晃一院長は「キット不足の中、柔軟な対応は必要だが、患者は不安だろうし、医師としても検査で確定診断したい。必要な人が検査を受けられない、診断してもらえないとなれば、医療を受ける意味がなくなってしまう」と訴える。
キット不足の背景には、オミクロン株の蔓延(まんえん)で、感染疑いや濃厚接触者への行政検査が急増したほか、自治体が民間検査機関や薬局などに委託した無料検査に感染に不安を覚える人が殺到したことがある。
厚労省は医療機関などに優先供給する方針を示している。ただ、有症状でも重症化リスクの低い人が医療機関を受診する前に自主的に検査する場合や、介護や保育など社会機能の維持に不可欠な「エッセンシャルワーカー」の濃厚接触者が待機期間を解除する場合にもキットの用途が広がっており、供給不足の解消には一定の時間がかかりそうだ。
検査需要の急増は多くの〝検査難民〟を生み出し、診断の遅れという次なる問題も引き起こしている。
東京都北区の「いとう王子神谷内科外科クリニック」の2回線ある電話は、抗原検査やPCR検査の希望者からの問い合わせで夜通し鳴り続け、先週の時点で70人のキャンセル待ちが出ている。検査待ちで自宅療養中に、無症状だった人が発症したケースもあった。伊藤博道院長は「渋滞解消の気配がなく、車列が伸び続けている状態。キット不足もあるが、マンパワーも限界に来ている」と打ち明ける。
より検査精度の高いPCR検査については、鼻腔などから採取した検体を調べる際に使用する試薬の不足を訴える声が、一部から上がっている。
さらにPCR検査で懸念されているのは、大量の検体を検査機関がさばききれず、結果判明が遅れるケースだ。東京都渋谷区の「マーガレットこどもクリニック」では、これまで翌日に出ていたPCR検査の結果が3日以上かかるようになってきた。重症化予防の飲み薬「モルヌピラビル」は発症から5日以内の服用が条件のため、診断が遅れれば使えなくなる。
田中純子院長は「重症化リスクのある高齢者や基礎疾患(持病)のある人の検査が遅れるようになったら、症状の悪化につながってしまう可能性は十分にある」と話した。(桑波田仰太、竹之内秀介)