まだ見ぬ遠い未来の危機や可能性を奔放な想像力で描き出す。そんなSF(サイエンス・フィクション)の力がビジネスや行政などの現場で注目されている。SF作家らの協力も得て、数十年先の社会の姿を物語で〝試作〟し、そこから逆算して現在の経営戦略や政策に生かそうとする試みが相次いでいるのだ。新型コロナウイルス禍で先行きの不透明感が増す中、常識や既成概念にとらわれないSF的な思考法に期待が集まっている。
2070年の鎌倉
2070年の神奈川県鎌倉市。女子高校生の宮子は自分が生まれ育った鎌倉地区が、気候変動が引き超こす激甚災害によって「10年後に消えてしまう」ことを知る。これまで外れたことがない〈ヒト生存圏シミュレーター〉による解析結果だった。今の土地に残るのか、別の場所へ移り住むのか。鎌倉市がまず考えたのは、未来の当事者となる子供に選択をゆだねる「未成年住民投票」を行うことだった…。