新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」による感染拡大で、山梨県の隣接5都県全てが蔓延(まんえん)防止等重点措置の適用となった。だが28日現在、山梨県は重点措置適用は申請せず、飲食店の時短営業や酒類提供禁止などの措置はとっていない。店舗での感染対策と同時に、医療提供体制を強化しているためで、その鍵を握るのが感染者の症状把握ITシステムだ。コロナ対策の医療版デジタルトランスフォーメーション(DX)の先行事例で、医療崩壊を防ぎつつ、経済活動を継続する「山梨モデル」を支える縁の下の力持ちだ。
地元の英雄にちなむ
「東京や他県では自宅療養といってはいるが、必ずしも医療の手が入っておらず、実際には医療放棄だ。山梨は自宅でも病院と同じように、医師と常に連絡が取れる状態にしてあり、決定的な差がある」
山梨大の島田真路学長は、同大が開発し県内で運用しているコロナ感染患者の情報を一元管理するシステムの効果を強調する。名称は「シンゲン(SHINGEN=Smart Health INformation Gathering & Evaluation Network)」。山梨の英雄、武田信玄公にちなんだ。
昨年8月、山梨大は県からの要請を受けて、ホテルに医師や看護師が24時間常駐し点滴や酸素吸入などのコロナ関連治療に対応できる山梨独自の医療強化型宿泊療養施設の運営・管理を開始。これに合わせシンゲンを開発した。
シンゲンでは、患者自身がスマートフォンに、体温や血中酸素濃度などの数値や、息苦しさ、倦怠(けんたい)感の状況などを入力。この情報が、療養施設に24時間常駐している医師や看護だけでなく、施設管理者、山梨大病院、医師会、重点医療機関のコロナ外来などで共有され、一覧できることが最大の特徴だ。
高熱や酸素濃度が一定数値より低い場合、息苦しさなどを訴えると、アラートがつく。医師らはだれの症状が悪化しているのかをすぐに察知し、治療や入院への切り替えなどの判断を素早く行う。
導入以前は、他県と同じように看護師らが各部屋の患者に電話で聞き取り紙に書き込んで管理していた。患者1人に数分かかるため処理量が限定され、一覧性も乏しく、患者数が多いと対応できなくなる。
シンゲンでは、入力自体は患者自身がスマホで行うため処理も早く、どこからでもアクセスできるメリットがある。