装丁入魂

グラフィックデザイナー・鈴木千佳子さん 医学の楽しさ 図鑑的に表現 山本健人著「すばらしい人体」

手のひら、心臓や毛細血管、医療器具…。ひげを生やした男性の姿もうかがえる。グレーを基調とした表紙に、ピンクとブルーに彩色されたイラストが、モダンな雰囲気を漂わせる。

本書は、医師で、ツイッターのフォロワーが9万人を超える「外科医けいゆう」こと山本健人さんが、人体や医学の魅力を紹介した本だ。「おならは何でできているのか?」「肘(ひじ)をぶつけるとなぜ電気が走るのか?」といった人体の知識から「生肉についての誤解」など健康にまつわる話まで医学上の教養を網羅。昨年9月に発売され、発行部数16万部と好調だ。

装丁を手掛けたグラフィックデザイナーの鈴木千佳子さんは「ただ知識を読み込むだけではなく、自分にとって身近な人体を捉え直す楽しさがある本。そこを含めてデザインで伝えたかった」と話す。本の全体感を考え、本文のデザインから組み上げていった。ページをめくると目を引くのが、薄くけい線の引かれた大きな横見出し。カルテをイメージしたという。竹田嘉文さんによる精密でレトロなイラストも理解を助けてくれる。「入門書としての分かりやすさと、情報の信頼性の両方が伝わるようバランスを取るのが難しかった」という。

表紙カバーは、竹田さんのイラストに鈴木さんが配色。サーモンピンクは、血の色や肉体をイメージ。緑がかったブルーは、本文でも触れられる、医師のガウンの色である水色を起点に考えた。「そのままの色を使うと怖いイメージになるので、現代的で手に取りやすい色を選びました」

複数のイラストを配置したのは本のテーマを意識したからだ。本書のサブタイトルは「あなたの体をめぐる知的冒険」。「いつもと違ういろいろな角度から人体の話をしてくれそうという感触を直感的に伝えたいと考え、体の図だけでなく、医療器具や歴史上の人物も配置しました」と明かす。

著者は「新しい図鑑の頁(ページ)をワクワクしながらめくったときのような、心躍る体験を届けたい」と本に込めた思いをつづっている。実際、巻頭には骨格や内臓などの構造が一覧できる全身図が付けられ、巻末には読書案内も設け、図鑑のような雰囲気に。「読み返したくなったり、誰かに渡したくなったりするような、長く残る本になるといいなと考えたんです」。手に取ったときの読書体験まで含めてデザインした。

人体の面白さ、日常のすばらしさに気づかせてくれる良書だ。

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