在宅医療の安全マニュアル存在せず 誤解や行き違いも

渡辺宏容疑者が立てこもった住宅。在宅医療を担った医師が殺害された=28日午前、埼玉県ふじみ野市
渡辺宏容疑者が立てこもった住宅。在宅医療を担った医師が殺害された=28日午前、埼玉県ふじみ野市

埼玉県ふじみ野市の住宅で、在宅医療を担った医師が患者女性の息子の渡辺宏容疑者(66)=殺人容疑で送検=に殺害された事件は、在宅医療に携わる医師らに衝撃を与えた。在宅医療でのトラブルはこれまでも起こっていたが、推進する厚生労働省に医師の安全を確保するマニュアルはないという。

「報道の通りなら、日頃から患者さんやご家族に親身に対応していたのでしょう」。京都市内で7年間、在宅医療に携わってきた岡山容子医師(50)は事件にショックを受けつつ、今回被害にあった医師らについてこう推察した。

在宅医療の現場では、医師が患者や家族のためによかれと思った言葉かけなどが家族から誤解を受け、行き違いが生じることもあるという。岡山医師は「どうしても患者や家族の誤解が解けない場合、別の訪問診療医師を紹介することもある」と話す。

患者の自宅が診療の場となる在宅医療では「患者の生活を支える側面が強い」と岡山医師。「医療者と患者や家族との信頼関係がないと難しい」と実感を込めた。

厚労省の統計によると、住み慣れた自宅で必要な治療を受けられる在宅医療の利用者は年々増加し、令和2年に訪問診療を受けた人は月当たり80万人を超え、10年前の2倍以上に。一方で、自宅でのケアを担う家族が孤立を深めるケースも少なくないという。

とはいえ、今回のように患者の家族によって医師が襲撃される事態は想定外。厚労省に在宅医療を行う医師の安全や危機管理に関するマニュアルなどはなく、策定の検討をしたことすらなかったという。

厚労省在宅医療推進室の担当者は「事件の全容が分からず、何をしていいのかも分からない状態」と困惑。「対策について、今後検討していく」とした。(北村理、宇山友明)

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