ロシアによるウクライナ侵攻の懸念が強まっていることを受け、日本政府は在留邦人に対し、商用機による国外退避を呼びかけている。昨年8月にアフガニスタンでイスラム原理主義勢力タリバンが実権を掌握した際は自衛隊機を現地に派遣したが、政府内では「ウクライナ侵攻」シナリオで自衛隊機を派遣するのは難しいとの見方が大勢だ。政府高官は「商用機が飛べなくなっても何とかなると思わないほうがいい」と危機感を強めている。
政府によると、ウクライナの在留邦人は今月20日時点で約250人。24日にはウクライナの危険情報について、全土を対象に渡航中止を勧告する「レベル3」に引き上げた。林芳正外相は「今後、事態が急変する可能性もある」と繰り返し強調している。
「このままとどまれば相当リスクがありますよ」
政府はウクライナの在留邦人に対し、電話やメールで商用機での国外退避を強く勧めている。本格的な武力行使が行われれば、現地邦人が戦闘に巻き込まれかねないためだ。
在留邦人約250人のうち商社などの駐在員の国外退避は進んでいるものの、ウクライナ人と結婚するなどして現地に定住する邦人に関しては難航しているのが現状だ。外務省幹部は「われわれの危機感からすると、もう少し退避のスピードが上がってもいいのではないか」と焦りを隠さない。「250人」という数字も外務省に届け出ている人の数で、それ以外の邦人も多数いるとみられる。
ロシアがウクライナ侵攻に踏み切れば商用機の運航は難しくなるが、自衛隊機の派遣も難しい。自衛隊法84条では、輸送は「安全」に実施できることが条件となっているためだ。アフガンの場合は米軍が首都カブールの空港を管理していたため戦闘に巻き込まれる可能性が少なかったが、ウクライナでは空港を含め「戦場」となる恐れがある。
防衛省幹部は「ウクライナは陸路でも退避できる」と指摘する。ウクライナ西部と国境を接するポーランドやルーマニアなどはNATO加盟国で、米国やフランスは部隊派遣を進めている。ただ、その場合でも国境付近までの輸送手段確保など課題は多い。政府としては商用機で一人でも多くの退避を実現したい考えだ。(杉本康士、市岡豊大)