日本のコロナ対策に欧米が注目の理由 「歴史の偶然性」研究者

仲野徹・大阪大院生命機能研究科、医学系研究科教授
仲野徹・大阪大院生命機能研究科、医学系研究科教授

現在、新型コロナウイルスのオミクロン株が流行しているものの、猛威を振るったデルタ株による第5波は収束しました。海外では、日本人のワクチン接種率の高さやマスク着用などの予防策の徹底ぶりに注目しているようです。そこで、仲野徹・大阪大院生命機能研究科、医学系研究科教授と、母校の大阪大医学部で同級生という公衆衛生学の専門家、高鳥毛敏雄・関西大社会安全学部教授と対談していただき、コロナ感染の状況にみる日本と海外の違い、コロナ後の生活のあり方などについてのお話を3回連載で掲載します。今回は1回目。

日本人の生真面目さが奏功

仲野 オミクロン株が流行していますが、デルタ株が広がった第5波は日本で急速に収まりました。理由は何だと思いますか。

高鳥毛 基本的にはワクチンが効いているからでしょうね。ワクチン接種率(16日現在で2回接種は78・6%)が高い。先進国でもトップクラスです。社会活動が活発な大人が接種すると、感染の広がりは抑制されます。

仲野 マスクの効果はどの程度あるのでしょう。町中でマスクしていない人はみません。ただ感染が一時収まったせいか、スーパーや百貨店など大型集客施設でアルコール消毒を利用する人は明らかに減っているように思えます。

高鳥毛 マスクの効果はあると思うので、人と接する場所では今後もマスクは必要です。アルコール消毒はどこまで徹底する必要があるか疑問です。日本人は石鹸での手洗いは習慣付いてますから、それだけでもよいと思っています。

仲野 われわれが子供のころは校内で「石鹸で手を洗おう」とかいう歌が流れていました。手洗いの習慣は日本人の脳に刷り込まれているのでしょうね。

歴史の偶然性が作用

仲野 マスク着用とか、手洗いの習慣とか日本人の衛生習慣以外に、海外より感染者が少ない理由はあるような気がしますが。

高鳥毛 公衆衛生学からみると、3つの歴史上の偶然があり、良い方に作用したと考えています。ひとつは高齢者施設と医療の関係です。欧州、特に高福祉国家といわれる北欧で高齢者の死亡が非常に多かった背景には、欧州の高齢者福祉の長い歴史が関係しています。欧州の病院は福祉のあとに登場してきました。高齢者は病気になっても施設で最後まで看取られ、基本的に病院に移さないから、高齢者の死亡が欧州で多かったのではないかと思っています。

仲野 日本と同じぐらいのレベルと思っていた欧州で多くの高齢者が亡くなったというのは意外でしたが、欧州の高齢者は人生の最後は介護施設で余生を送る、病院は死ぬところではないと考えられているということでしょうか。

高鳥毛 そう理解しています。日本は逆で、病院が先に整備されました。僕らが阪大の医学生だった約40年前は、病院の入院患者で要介護の高齢者が非常に多かった。最近でこそ介護保険制度(平成12年)のもと高齢者の受け皿ができていますが、日本の高齢者施設は具合が悪くなると、すぐ病院に送ります。また、欧州の施設は福祉職だけで高齢者をみていますが、日本の施設の高齢者は病院から移されてきた経緯があるので、施設に医療者も配置されています。

仲野 確かに、僕らが医学生のころは、阪大病院にも風邪をひいた患者さんが当たり前のように来ていましたね。現在は、大学病院など高度医療を行う拠点病院は、かかりつけ医の紹介状が必要となっていますけれど。

高鳥毛 それが2つ目の歴史的偶然です。30年前に医療法が改正され、医療機関の専門分化が進められましたが、それでもまだ重症患者をみる医療機関や感染症患者を受け入れる病床は少ないのです。3つ目の歴史的偶然は、自治体が公衆衛生対策を担う体制を残していたということです。そのひとつが保健所です。これが日本のコロナ対策で奏功しているとみています。欧米など先進国はこの制度を廃止しています。欧米の感染症対策はコレラのパンデミックが契機だったため、下水道整備が大事でした。

仲野 欧米が保健所の制度を廃止したのは、現在の衛生状態が各段に向上したからですか。

高鳥毛 そういうこともあります。病院さえあれば感染症は大丈夫という考えになったのです。コロナ禍ではそれがマイナスに働きました。城攻めに例えると、外堀も城壁もいらない、天守閣だけでよいとしたのです。しかし、城攻めにあうと天守閣だけでは当然耐えきれません。

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