日本のコロナ対策に欧米が注目の理由 「歴史の偶然性」研究者

異なる病院と保健所の役割

高鳥毛敏雄・関西大社会安全学部教授
高鳥毛敏雄・関西大社会安全学部教授

仲野 日本でも下水道整備(昭和38年第1次5カ年計画開始)を進めてきていますが、なぜ保健所制度を残してあるのですか。

高鳥毛 日本人を苦しめてきたのは結核です。結核は日本中どこでも発生したため、保健所が全国各地に一律に整備され、保健師に対処させました。それは、自治体も病院も対応できる状態ではなかったからです。保健所整備のために厚生労働省(昭和13年厚生省設置)がつくられたのです。

仲野 戦後しばらく死亡原因の第1位だった結核も1970~80年代に患者数は減りましたよね。

高鳥毛 今でも1万人以上(新規登録患者数、令和元年約14500人)はいるので保健所は残されました。加えて1980年代までは各市町村に保健師は少なく、住民の健康を支援する状況になかったのです。病院も患者の診療を受け入れるのが精いっぱいで、予防対策まで手が回らなかったのです。ですので、結核患者が減ってきても、脳卒中やがんの予防などを保健所が最近まで担い続けていたのでした。

仲野 病院も40年前は今より少なく、診察の待ち時間が長すぎると大問題になっていました。今回のコロナ禍では保健所が少ないと指摘されましたが。

高鳥毛 保健所の数は減っていますが、問題は全国一律に配置されなくなっていたことです。新型コロナ感染者数が多かった都市部ほど人口あたりの保健所数は少ないのです。病院はたくさんあっても、感染症対策を行う保健所は1カ所になっています。大阪市には平成12年まで24カ所あったのが現在は1カ所しかありません。そもそも感染症対策における病院と保健所の機能は異なります。公衆衛生の関係者も含め、保健所の成り立ちや日本と欧米の公衆衛生体制の違いを理解している人は少ないのではないかと思います。

仲野 なるほど。一般の国民が事情を知らないのは当然ですね。

なかの・とおる 昭和32年、大阪市生まれ。大阪大医学部卒。専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学。著書に「こわいもの知らずの病理学講義」(晶文社)、「みんなに話したくなる感染症のはなし 14歳からのウイルス・細菌・免疫入門」(河出書房新社)

たかとりげ・としお 昭和30年、石川県生まれ。大阪大医学部卒。専門は公衆衛生学、健康政策学、結核対策、感染症政策、社会安全学。著作に共著「健康科学の史的展開」(放送大学教育振興会)、共著「新型コロナで世の中がエラいことになったので関西大学がいろいろ考えた。」(浪速社)(編集委員 北村理)

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