検閲削除される前の希少本 萩原朔太郎「月に吠える」初版が一般展示

寄贈された「月に吠える」初版無削除版。表紙は著名な版画家の恩地孝四郎と田中恭吉が手がけた(前橋文学館提供)
寄贈された「月に吠える」初版無削除版。表紙は著名な版画家の恩地孝四郎と田中恭吉が手がけた(前橋文学館提供)

前橋市出身の詩人、萩原朔太郎(1886~1942年)の代表作「月に吠える」の初版無削除版が市に寄贈され、29日から前橋文学館で一般向けに展示される。無削除版は当時、内務省の検閲で性的表現に問題ありとされた2編の作品を削除しないまま出回った初版本。確認されているのは10点ほどしかなく、極めて希少で高額なため同文学館でも入手できずにいた。コレクターでもある秀明大(千葉県八千代市)の川島幸希学長が寄贈した。

「月に吠える」は朔太郎30歳の処女作として、大正6(1917)年2月に刊行され、詩壇・文壇から絶賛された代表作。初版は500部ほど刊行されたが、直後に内務省の通知で「愛憐」と「恋を恋する人」の2編が削除された。

「きつと可愛いかたい歯で、草のみどりをかみしめる女よ」と始まる「愛憐」は、女性への情愛を率直にうたいあげ、「ああわたしはしつかりとお前の乳房を抱きしめる」といった表現も。一方の「恋を恋する人」は「わたしはくちびるにべにをぬつて、あたらしい白樺の幹に接吻した」という表現で始まり、「描かれた恋は観念的」との評もある。

検閲を知った朔太郎は、地元紙の上毛新聞に「風俗壊乱の詩とは何ぞ」と題した一文を寄稿。2編について「共に性欲に関する一種の憧憬およびその美感を歌ったもの」とし、「極めて典雅な耽美的な抒情詩であって、どこに一つの不思議もない」と指摘。その詩が風俗を壊乱するというのなら「古来のあらゆる抒情詩の中でいやしくも恋愛に関するものは、ことごとく禁止されなければならないはずである」と反論した。

「月に吠える」は、口語自由詩確立期の詩集として近代詩の変革をもたらした点で文化的価値が高い。当時、まだ無名の朔太郎としては従わざるを得なかったが、だからこそ初版無削除版は希少で、検閲を受けたという点で政治的意味も持ち、郷里の文学館として「なくてはならない最後のピース」だった。しかし長く入手できなかった。

寄贈した川島氏によると、「フライング気味に出回ったので部数は定かではないが、確認できるのは10冊」。日本近代文学・書誌学者で40年来のコレクター、しかも両親が群馬出身という経緯から無削除版には早くから注目し、古本市場などで7冊を集めた。中には「津波に流されては不安だ」という宮城県の店から購入したことも。

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