日本ワインとは、国産ブドウのみで国内醸造されたワインのこと。産地やブドウの種類によって多様な味が楽しめ、世界的にも評価が高まっているという。その純国産ワインの魅力を発信しようと、中国・四国地方の14のワイナリーが昨年12月に集まりイベントが開かれた。いまは知名度は低いものの「何を手にしても間違いないといわれるワインの産地に」と意気込む生産者たち。コロナ禍で飲食業界の逆風が続くが、ワイナリーの奮闘が続いている。
売り上げ激減の中で
「実現できたのは奇跡的だった」。中四国ワイナリー協会の会長で、「広島三次(みよし)ワイナリー」(広島県三次市)の醸造長、太田直幸さんは話す。
広島市中心部で昨年12月に開かれた「西国葡萄酒祭(さいごくぶどうしゅまつり)」。イベントは、国産ブドウを100%使用して国内で製造された日本ワインの魅力をPRしようと広島国税局などが主催して企画された。
昨年5月の予定がコロナ禍で延期され、開催めどが立たない日が続いていたが、一時沈静化した時期だったことから、感染対策を取って実施にこぎつけた。
コロナ禍の影響で大打撃を受け続けている飲食業界。太田さんは「飲食店の営業自粛で売り上げは激減した。家飲み事情で少し伸びた部分もあったが、外食(酒類提供の停止)で失った分を賄うほどにはいかない」と振り返る。
なかでも、観光型のワイナリーは「売り上げが4割減のときもあった」。その後、広島県はまたもや「蔓延(まんえん)防止等重点措置」を適用中だ。
イベントはあくまでPRの一環で、それだけで売り上げが回復するわけではない。だが「お客さまが普段なかなか手を出さないワインを少しずつ味見し、好きなワインを見つけてファンになってもらう。普段の食事の彩りになればという思いだった」と太田さんは感謝した。
ワインの産地として
国税庁が昨年発表した調査では、令和2年1月の国内ワイナリー数は全国で369場。前回調査時(平成31年3月)からは38場増加し、果実酒製造場となると488場(令和2年3月)にのぼる。
ワイナリー数は、上位の山梨、長野、北海道で全体の49・3%を占める。だが、中国・四国地方の計9県でも年々増加。平成29年3月時点では20場だったが、令和2年1月時点では32場に増えた。
中四国ワイナリー協会には23のワイナリーが加盟。高品質なワイン造りのために情報を共有し合い、太田さんは「中四国を一つの地域として(ワイン造りの)底上げをしていきたい」と強調。産地としての知名度を上げるためにも「何を手にとっても間違いないといわれる産地にしていかないといけない」と話す。
太田さん自身もニュージーランドで修業を積み、数々のコンクールで受賞を重ねてきた。「一人の造り手として、自分が納得するものを造りたい」と言い、広島三次ワイナリーでも「世界レベルのワインを造っていることを知っていただき、楽しく飲んでいただきたい」と語る。
地元の誇りに
産地としての知名度は低いが、ワイン造りそのものは地元にも根付きつつある。広島三次ワイナリーの「TOMOÉマスカット・ベーリーA 芝床ヴィンヤード2018」。芝床は三次市内にある農家の名前をつけている。
コロナ下にもめげず、今年グランドオープンする予定のワイナリーもある。
今回のイベントに参加していた高知県香南市の「井上ワイナリー」。高知は日本酒のイメージが強いが、ブドウ栽培から醸造まで全てを高知県内で手掛け、ワインを造り上げた。
井上ワイナリーの営業部長、梶原英正さんは「高知は台風銀座と呼ばれた地でブドウ栽培には決して向いていない。けれど、しっかりと取り組んで改善し、いいブドウができている。初醸造のワインも評価していただいた。地元の誇りになるワインにしていきたい」と話した。(嶋田知加子)