性ホルモンを学ぶ

⑨介護リスクに直結 気にかけて、パートナーの骨密度

加齢による女性ホルモンの欠乏から生じる疾患で、高齢期女性の生活に大きな影響を与えるものの一つが「骨粗鬆(こつそしょう)症」だ。更年期でホルモン補充療法(HRT)を行うことや、この時期から骨密度検査を受け、適切な投薬などを受けることで骨量減少を予防することもできるという。また生活習慣を見直すことは「危険因子」を取り除くことにつながる。将来に備え、更年期に差しかかる40代から「骨密度」を気にかけておきたい。


「顔のたるみ」が気になったら…


都内に暮らす会社員女性(43)は最近、鏡に写る自分の顔に違和感を覚える。

「昔はつり目だったけど、目尻は下がり気味に。頰は下膨れがますます気になってきた」

こうした顔のたるみは、骨密度の低下も要因の一つという。背景にあるのは、女性ホルモン「エストロゲン」の減少だ。

「エストロゲンには、骨を生成する骨芽(こつが)細胞を育てたり、古くなった骨を壊す破骨(はこつ)細胞を抑えたりする働きがあります。エストロゲンが減少すると、骨は作られるより、壊されるほうに傾き、骨密度が低下する。これが骨粗鬆症の原因です」。浜松町ハマサイトクリニックの吉形玲美医師はそう説明する。

頰骨(ほおぼね)と顎骨(がくこつ)の骨密度低下は早期から始まるため、顔のたるみは、骨粗鬆症予防を始めるサインともいえそうだ。

吉形医師は「できれば更年期に入る前に一度、婦人科や整形外科で、骨密度を測定することをおすすめします。標準より低い値であれば、予防に早くから取り組むことが大切です」と注意を促す。


骨密度の減少を緩やかにするには


吉形医師によると、女性の骨密度のピークは20代。更年期以降のエストロゲンの減少で、骨密度は急激に低くなるが、更年期症状を和らげるホルモン補充療法(HRT)は、骨粗鬆症予防にもなるという。

治療だけでなく、セルフケアも大切だ。危険因子を知り、リスクを取り除く努力を重ねたい。

危険因子は、カルシウム不足▽ビタミンD、K不足▽塩分の摂りすぎ▽無理なダイエット▽運動不足▽喫煙▽アルコールやカフェインの過剰摂取-などだ。

ビタミンDが不足すると、カルシウムが骨に吸収されなくなる。バランスの取れた食事が重要だ。


高齢期に入っても骨密度は取り戻せる


適切な治療と生活習慣の見直しで、低下した骨密度を何歳からでも上げる余地もある。

吉形医師が診察している骨粗鬆症の70代後半の女性は新型コロナウイルスが流行し出した一昨年、外出する機会が減り、投薬中にもかかわらず骨密度が大きく低下した。

だが、その後1年かけて生活を見直し、夫婦で毎日1時間の散歩を欠かさず行った結果、骨密度が大幅に改善。若年層の値の9割近くまで回復したという。

「散歩だけでなく、検温や血圧測定を夫婦でともに行い、数値を報告し合っているそうです。高齢期の骨折は、寝たきりにつながるリスクもあります。更年期の骨密度測定をきっかけに、パートナーや家族、友人同士で健康を気遣い合えるといいですね」

【性ホルモンを学ぶ】

人生の節目節目に、身体的、精神的な影響をもたらす「性ホルモン」の作用に注目が集まっています。性に関する科学的な知識をもつことは、豊かな人生につながります。家庭で、職場で、学校で-。生物学的に異なる身体的特徴をもつ男女が、互いの身体の仕組みを知り、不調や生きづらさに寄り添うことを目指した特集記事を随時配信していきます。

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