古来、わたつみと呼ばれた海。海をめぐる営みを抜きに、日本人の成り立ちは語れない。先人たちと海の関わりから、こころの源流を探る「わたつみの国語り」。第1部では神話の世界をひもといていく。
連載 わたつみの国語り 第1部(全4回)
太平洋が圧倒的な水量で迫っていた。九州南東部、宮崎県日南市から見る海は、水平線が丸みを帯びているように感じる。崖の中途のような大きな洞窟のなかに、窮屈な形で赤い社が建っていた。ウガヤフキアエズノミコトを祭る、鵜戸(うど)神宮の本殿である。
ウガヤフキアエズ、すなわち神武天皇(カムヤマトイハレビコノミコト)の父が生まれたのがこの洞窟だと伝わっている。奈良盆地という内陸に築かれた大和王権だが、海との関係は極めて深い。ウガヤフキアエズの母、トヨタマビメの本当の姿は「ワニ」であった。