フランスは文学の国だ。作家は「今はどんな時代か」「人はどう生きるべきか」といった問題に答えを出すことが求められる。
第二次大戦後には、哲学者サルトル、小説「ペスト」で知られるカミュが活躍した。彼らは時代と関わり、発言する「アンガジュマン(社会参加)」の文学で、若者を熱狂させた。左派リベラルの教祖というべき存在だ。
現在の仏文学を代表するのは、ミシェル・ウエルベック(65)という小説家だ。5年に1度の大統領選を前に今月、新作「アネアンティール(根絶)」が発売され、ベストセラーを突っ走っている。
2027年の大統領選を舞台とした未来小説で、ポピュリズム(大衆迎合主義)の行方を描く。736ページの大作だが、マクロン大統領ら実在の人物を思わせる政治家が続々登場するから、ぐいぐい引き込まれ、一気に読んでしまった。「本当にこうなるかも…」と思わせるところがウエルベック作品の魅力。彼は「予言者」の異名を持つ。移民流入や失業に揺れる社会を余すところなく表現し、次の時代を示す。
15年に発表した小説「服従」は、22年の大統領選でイスラム政権が誕生するという筋書きだった。発売日に、イスラム過激派による風刺週刊紙シャルリー・エブド襲撃テロが起き、「不気味な偶然」に国内は騒然となった。