書評

『家計・企業の金融行動から見た中国経済 「高貯蓄率」と「過剰債務」のメカニズムの解明』唐成著 「恒大」危機 問題の核心

中国経済の先行きに暗雲が垂れ込めている。2020年の経済成長率は改革開放以後で最低の水準だった。中国恒大集団が経営危機に陥るなど、過剰債務問題にも火がつき始めている。

中国はこれから、どのような道を歩むことになるのか。バブル崩壊後の日本のように長期の経済停滞を体験することになるのか。それとも安定成長への転換をスムーズに実現していくのか。この問題に答えるには、中国経済が直面する課題を実証的に分析してみる必要がある。

本書は、中国の過剰債務問題がどのように発生したのかを、家計や企業の金融行動という視点から経済学的に分析したものである。なぜ家計貯蓄率は高止まりしているのか。なぜシャドーバンキング(影の銀行)と呼ばれる、銀行以外のファンドなどによる資金融通がこれほど拡大したのか。企業の過剰投資はなぜ収まらないのか。民間機関が発表しているミクロ統計や、著者自身が実施したアンケート調査の結果をふんだんに活用することで、これらの疑問に実証的な答えを導き出していく。

随所に、日本との比較が行われているのが興味深い。例えば日本では、人口の高齢化が進むにつれて家計貯蓄率が低下している。だが中国では、高齢化が進んでいるにもかかわらず、貯蓄率が高止まりしている。これはなぜなのか。実証分析から導かれるのは、子供に遺産を残したいという家族動機が強く働いているという可能性である。

また日本では、家計貯蓄は今も現預金に集中しているが、中国では理財商品のような高利回りのリスク資産に貯蓄を振り向ける傾向にある。家計のこうした資産選択が、シャドーバンキングを通じて企業の過剰投資を促進している現実もある。

中国が安定成長に移行するには、貯蓄から消費へ家計行動が変わる必要がある。企業は投資資金を配当や賃上げに回していかなければならない。だが、長く続いた経済構造の転換は簡単ではない。この先、サービス経済化やデジタル化に対応した新たな成長モデルを導けるのか。それとも、日本のような長期停滞に突入するのか。こうした問題を考える上でも、本書の手堅い実証分析は、読者に多くの判断材料を与えてくれるだろう。(有斐閣・4400円)

評・柴山桂太(京都大准教授)

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