古都・京都の中心部にある京都市中京区の自宅で、久保圭子さん(66)は昨年6月、母親の久代さん(91)を看取(みと)った。大阪から嫁入りした久代さんは江戸時代から続く商家を守り抜いた末の大往生だった。在宅の療養を見守った久保さんは「母の意思を尊重できて安堵(あんど)しました」と振り返った。
病院か自宅か。決断を迫られたのはその4カ月前の昨年2月だった。久代さんが就寝中に電気あんかで足に低温やけどを負ったが、通院は足腰が弱っており難しい。かといって入院すれば、病院で最期を迎えることになるかもしれない。「入院したら孫たちとも会えなくなる」。久保さんが久代さんに話すと、悲しそうな表情を浮かべたことが在宅を決断させた。
地元のかかりつけ医から引き継ぎを受けた在宅療養支援診療所の岡山容子医師は、久代さんを最期まで自宅で過ごさせたいという決意を受け止めた。当初は植皮手術が必要とみられたが、訪問看護師が塗布剤などでケアした結果、やけどの症状からは回復した。
在宅での療養は家族に負担を強いるのも事実だ。母親をみる家族は仕事を持つ久保さんただ一人。目の届かないところで転倒し骨折でもすれば新たな苦痛を生む。「介護施設に入れたほうがいい」との声が親族から出たが、久保さんは久代さんが自宅での最期を望んでいると反対した。
誰にでも訪れる最期、怖がらなくてもいい
最期をどこで迎えるか、家族らの意見に相違があるとき、岡山医師は慎重に介入する。死が迫れば家族は動揺し、本人が望まない臨終の形になることもあり得るからだ。久保さんと親族との話し合いの場を取り持って折り合いをつけ、彼らの気持ちが在宅で一致したのを確認したところで、最期に向けて心がける点を伝えた。