手作りの漬物やジャムを手にボランティアの坂本笑子(えみこ)さん(76)が山梨県中央市のホスピス、玉穂ふれあい診療所を訪れた。薪ストーブのあるラウンジ兼食堂で、看護師や入院患者らと談笑の輪ができる。
笑子さんは時々訪れて草むしりをしたり、床をふいたり、入院患者の話し相手になったりする。29年前に逝った義母が訪問診療を受け、妹と義弟、そして3年前に大腸がんだった夫も診療所で逝った。家族も泊まり込んで最後の日々を過ごし、「夢にも出てこない」ほど思い残すことのない看取りができたという。
ボランティアには診療所で家族を看取った人が多い。「野菜持ってきたよ」「新米とれたから」。農作物など差し入れも多い。コロナ禍前の恒例のイベントは数千人も集まった。年間200人以上が命を終える診療所で、死は日常の隣にある。看取り、看取られるという、かつて地域共同体にあった営みが存在しているのだ。笑子さんは穏やかに話した。「私もここで逝きたいと思っています」
『幸せの死』に立ち会えると、新しい出発ができる
玉穂ふれあい診療所は平成15年、ペインクリニックを営み訪問診療も行う土地(どち)邦彦院長(74)が、ホスピス機能を持つ有床診療所(有床診)として開設した。在宅から継続的に患者をケアできる入院施設が必要だとの信念に基づく。
「家族の手に負えなくなると入院し、体中が管でつながれる。病院は一分一秒でも生命を伸ばそうとするが、それが本当に患者に寄り添うこととは思えない」