記者発

隔離施設の生活 風評と現実 ソウル特派員・時吉達也

年末年始、家庭の都合で日本に一時帰国した。新変異株のオミクロン株が登場したことで、指定された施設での6泊の隔離生活を余儀なくされたのだが、日本への出発が近づくにつれ不安が増していった。隔離施設の劣悪さを強調する感想が、ネット上を埋め尽くしていたためだ。

「窓もない密室に閉じ込められる」「洗濯もできないので裸で過ごした」「体調を崩しても病院に連れて行ってもらえない」―。悲愴(ひそう)感あふれる書き込みに触れ、覚悟を決めて日本に戻った。

しかし、実際の隔離生活はそれほど不便でもなかった。支給される飲み物は水だけだが、通販でティーバッグを購入すれば温かいお茶も飲める。タブレット大の旧型テレビは急遽(きゅうきょ)設置された様子で、入所者のストレスを和らげようとする配慮が感じられた。もちろん実際に隔離環境に苦しんだ方もいるのだろうが、やや誇張された風評が独り歩きしているな、というのが率直な感想だった。

私が実際に目にしたのは、入国手続きから施設到着まで6時間以上かかっても文句を言わず、整然と指示に従う人々の姿。現実世界では周囲を思いやり言動を自制する人々が、ネット上では施設や役人の対応を汚い言葉で非難するのだろうか。それが特に気になったのは、帰国直前に行った取材の影響もあった。

新聞8紙に毎日目を通し、紙の新聞の魅力をインスタグラムで発信する30歳女性をインタビューした際、活動へのコメントが寄せられる中で「炎上」が起きたことが一度もない、という話が印象的だった。ネットニュースのコメント欄と違い、インスタでは「自分の反応が友人に共有されるため、表現に気を使うのではないか」と女性は分析していた。自分に向けられた他人の視線を具体的にイメージできる環境を整えれば、ネット空間での荒々しい発言を思いとどまることができるのかもしれない。

ひとまず、施設隔離への不満が噴出するSNSを眺める「サイレント・マジョリティー(物言わぬ大衆)」の立場で、改めて伝えたい。

医療従事者、公務員の皆さんのおかげで、慣れない隔離生活を無事に過ごすことができました。本当に感謝しています。

【プロフィル】時吉達也

3年間の韓国留学後、平成19年入社。社会部で裁判・検察取材を担当し、外信部では平昌五輪や南北・米朝首脳会談を現地で取材。昨春から現職。

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