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真矢ミキ(20)社会派ドラマの出演にやりがい

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《現在、NHKBSで放映中のドラマ「生きて、ふたたび 保護司・深谷善輔」(日曜午後10時から)に出演中。中年で引きこもりだった弟を刺殺した母親(浅丘ルリ子さん)の「出所後」を描く社会派ドラマで、真矢さんは加害者家族であり、被害者家族でもある、複雑な立場の小山香苗役を演じている》


台本も重厚で、共演者のお顔触れも素晴らしかった。犯罪者の更生を助ける保護司役が舘ひろしさんで、そのサポートを受けるお母さん役が浅丘さんですから、出演に迷いはなかったです。30~40代は痛快なキャリア女性役などやらせていただきましたが、50代の今、さまざまな経験や複雑な思いがにじみ出るような役への粘りを、大切にしたいと思うんです。


《事件発生後、香苗は報道機関に追われ、自分の家族を守るため、離婚し別居。しかし母の出所にあたり、身元引受人を打診されるなど、事件にずっと苦しめられる》


今回の役は本当に演じていて苦しくて、3カ月の撮影期間がこれ以上、長引くと病気になる、と思ったほどです。香苗のように、加害者である母親と、血のつながりがあるのが自分しかいない状況では、絶縁しても、母と同じ血を拭いきれない悔しさがあります。出所した母親を拒絶する香苗に対し、第三者から投げかけられる「あなただけなんです、家族は」っていう言葉は、本当にきつかったですね。「こんなに広い世界で、なぜ、あの人とだけ家族なんだろう」って心底、憎悪がこみ上げました。

香苗って生きているようで、生きてない。今作に似たような、家庭内で起きた事件の資料にできるだけ目を通しましたが、事件発生から家族の人生も大きく狂って、家族全員の時が止まっている。事件現場となった実家にも、事件の残骸が散らばっています。香苗も息を潜めて暮らし、二度と夢なんかみてはいけない、という〝罪深さ〟を体全体にしみ込ませている。「生きて、ふたたび」というタイトルは、事件の当事者だけでなく、家族にもあてられたテーマなんだと思いました。


《日本独特の「保護司」の現場を伝え、また引きこもる中年を老いた親が抱え込む「8050問題」なども扱った、硬派な今作への出演に、やりがいを感じた。香苗は安アパートに暮らし、コンビニエンスストアなどで働く中年女性。生活感と内面の葛藤をにじませた》


こういう役を演じると、社会の課題に、自分の意見も色濃く出てきます。犯罪被害者はもちろん、その家族にも保護司のように寄り添ってくれる立場の人がいてほしい、と切に思いました。被害者は、裁判になれば再び事件を思い出さざるを得ず、何度も何度も深い傷に塩を塗り込まれます。その苦しさは、当事者にしか分からない。

自分の意思とは関係なく、ある日突然、大きな渦に巻き込まれ、人生が黒く塗りつぶされることって本当に起き得るのだと、今作で体感しました。がむしゃらにあがき、苦しみに溺れた3カ月でした。


《初共演だった浅丘さんとは、敵対する母子役だったが、撮影後はすっかり仲良しに》


舘さんとは以前も共演し、かわいがっていただきました。オフは大人の色気がにじむ、すてきな方です。浅丘さんも、周囲にまで気遣いのある本当にいい方ですから、私は役作りのため、極力そういうお姿を見ないよう努力したほどです。息子殺しの難役で、浅丘さんは一段と痩せたように見えました。それだけみなさんがのめりこんで演じられる現場に身を置けて、幸せでした。(聞き手 飯塚友子)

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